「トウキョウソナタ」 木藤幸江プロデューサー 第2部

 シカゴ国際映画祭で第2位にあたる審査員特別賞を受賞した黒沢清監督の映画「トウキョウソナタ」のシカゴ公開を記念してシカゴ入りしている同映画のプロデューサー、木藤 幸江さんにお話しを伺った。(木藤幸江氏「以下:Kito」、US新聞編集部「以下:編」)

編. 今回の作品はカンヌをはじめ多くの国際映画祭で注目を集めましたが、制作当初、ここまで世界に受け入れられるということは予想されていましたか 

Kito. 脚本の段階では予想もしていませんでしたが、黒沢清監督がやるといわれてから正直、世界が見えてしまったし、意識せざるをえなくなりました。黒沢監督といえばカンヌには撮れば出るというように世界的にも有名な監督ですので、周りから“黒沢監督がやるなら世界で賞もありえますね”の声も多く、自然と意識するようになりました。ただ作品を賞のために作るのは間違いなので、現場としてはただ良いものを作りたいという気持ちでした。一方で、資金を出してくださった方のことなどを考えると、やはり賞を意識しないといけないというところもありました。 

編. 作品はまさに今の日本を映し出したものとなっていますが 

Kito. 脚本を読んだのが約3年前で、撮り始めた頃には考えてもいませんでした。原作の脚本が書かれたのはかなり前で、バブルが崩壊した後の日本を描いたものでした。ところがカンヌで5月、トロントで9月の上旬、日本公開が9月の下旬だったのですが、この間に、リーマン事件が起きました。経済危機が起きた後と、その前ではぜんぜん反応が違いましたね。「なんてタイムリーな作品を作ったんだ」という声が多くなりました。ニューヨーク映画祭に参加した際は本当に、リーマン事件の直後で、上映会で「こういう時期に上映するつもりではなかったのですが」と話すと会場がドッと笑ってくれました。


 撮影中は正直、すこし今の時代からずれているんじゃないかと思っていたのですが、監督とも相談して、バブル崩壊後、徐々に景気は回復していると言われながらもふつふつとしているものもあり、もう一度、このバブル崩壊後の状況を描くのに、無理はないんじゃないかということになりました。ただ、まさか、こんなタイミングで経済危機がくるとは思ってもいませんでした。監督もいろんな所で、経済のことを聞かれることが出てきて、「いや、ぼくは経済学者じゃないんだけど」ということもありました。 

編. 木藤プロディユーサーは11年間アメリカにいらしたと伺いましたが 

Kito. 日本では出版社でライターのようなお仕事をしていたのですが、子どもの頃から映画が好きで、映画少女とかいうほどではなかったのですが、私と映画との接点はアメリカでした。アメリカに憧れていました。映画が好きでアメリカに来たのか、アメリカに憧れてアメリカに来たのか、とにかく映画といえばロサンゼルスだと思い、日本での仕事をやめてアメリカに来ました。こちらにきてからもライターをしていて、こちらの記事を日本の出版社に送る仕事をしていました。ロサンゼルスですと、どうしても映画関係の取材がおおかったんです。丁度そのころ、日本の会社がハリウッドでの映画制作をはじめていたので、仕事をしている時知り合った方にそちらの製作会社に誘われてその会社に入ったのが映画を作る側になったきっかけです。 

編. アメリカと日本、両国の映画制作に関わられたということで、製作現場においての両国の違いはありますか

Kito. 日本の現場は日本の古い文化が残っていると思います。上の人を立てるとか。例えば、自分の仕事が終わったからといって、寝そべったり、自分のことをしていたりはしません。アメリカはもっとカジュアルで、自分の仕事がないときは上の人が何をしていようと特に構わない感じがあります。これはやっぱり、文化の違いなのかなという気がします。 

 日本の現場ではよく罵声が飛ぶといわれますが、黒沢監督は紳士なことで有名な方なので、今回の現場ではそうしたことはありませんでした。トップが紳士だと、周りもおとなしくなるみたいです。

編. 日本の場合、映画を芸術として認めるまでにまだなっていないと感じるのですが、資金集めなど、大変な部分があるのではないですか 

Kito. 文化庁などがいろいろと支援してくれていますが、世界と比べるとまだという感じがします。昨年、日本国内で作られた映画は430本ですが、海外での興行が決まったのは宮崎駿監督「ポニョ」と「トウキョウソナタ」「おくりびと」の3本。国際的な市場では日本の映画ってまだまだ難しいのかなという感じを受けます。いい作品はあるんですけれどね。 

編. 日本の映画界ではまだまだ女性のプロデューサーは珍しいとおもうのですが 

Kito. そうですね、私はたぶん、海外という立地マーケットから出てきた変わり者だと思うんですね。そういう意味で、自分が女性だと意識したことはないんですが、ただ、まだまだ、日本では実際そういうところがあるんだと思います。今回、カメラが芦澤明子さんという女性の方なんですが、女性のカメラマンも珍しいんです。女性のプロデューサーも珍しいので、お互い珍しい同士だねと話していました。ただ、日本の映画はアメリカと違い観客の殆どがOLや主婦など、女性なんです。ビジネス上、女性の感性を意識しないわけにはいかないという状況があります。ですから、女性プロデューサーというのは結構いるようになってきました。「フラガール」のプロデューサーの石原仁美さんとお友達なんですが、やはり、男性が中心の、女性が少ない職場だからこうして女性同士が仲良くなるのかなとも感じます。 

編. 昨日は映画上映の後、木藤プロデューザーも参加してのQ&Aコーナーがありましたが、世界各国の反応を見てこられた木藤さんからみて、シカゴの観客の反応はいかがでしたか 

Kito. シカゴのお客さんは目が高いというか、笑うところでは少しわらってもらえたし、そうでないところは一生懸命見ていただけたので、よかったです。カンヌの場合は特殊で、観客も楽しむぞという意気込みで来場しているので、時間も時間でしたので、お酒を飲まれてから来たのかなという印象があるくらいよく笑っていただいていました。ここでの公開が初めての作品が多いということもあって、とにかく観客側に「見るぞ」という雰囲気が漂っていました。

 ただ、こうなると、作品を良いか悪いかで分けてしまうところがあるのかなと思いました。逆に、トロントの場合は一旦落ち着いてからのじょうえんでしたので、またカンヌとは違う反応でしたね。どこの国でもそうだったのですが、表面的なものだけでなく、やっぱり人間、万国共通なのねというような反応をいただいたので、よかったと思います。 


 この映画はアメリカ30箇所以上で公開が決まりました。30箇所というと、シカゴのように日本人が多い都市だけではないと思うんですね。日本映画と思って作っていたのですが、万国共通なんだなと思っています。小泉今日子から「木藤さんは外人だからね」といわれるんですが、アメリカに長く住んでいたので、半分外人みたいなところがあるのか、そういう視点で作ったからこそこうしていろんな国でも受け入れられるようになったのかなとも思います。是非、アメリカにいる日本人の方々にも見ていただきたいです。




                トウキョウソナタ 日本の現代家族を見事に表現 

 昨年、シカゴ国際映画祭でGrand Jury Prize (審査員特別賞)を受賞した黒沢清監督「トウキョウソナタ」の公開がシカゴMusic Box Theatreで始まった。カンヌ国際映画祭を始め、多くの賞を受賞したこの作品は、今年度のアカデミー賞外国語映画部門を受賞した「おくりびと」滝田洋二郎監督と並び、アメリカで公開される日本映画の注目株だ。 

 
リストラを家族に告げられずにいる父親、ドーナツを作っても食べてもらえない母親、みんなを守るためにアメリカ軍に志願する長男、両親に内緒でピアノを習う次男。どこにでもありそうな日本の家庭が徐々に不調和音をきたし、崩壊していく様子をリアルに描き出した映画。一般的なサラリーマン家庭の父親像、母親像、家族像を見事に表現している。 

 流れからもれてしまったサラリーマン。プライド、威厳、これまでの価値観を捨てられない父親の姿を香川照之が好演。日々、普通に家事をこなし、ただただ暮らしている母親役を小泉今日子、意外な展開に繋がる泥棒役を役所広司と、実力派が固める。同じ家に暮らしているのにお互いのことが見えない、見ようとしない日本の家族が抱える問題をテーマに、「会社主体」で回ってきた日本の社会が作り出した価値観をもう一度考え直させてくれる作品。

 
今回、シカゴ公開にあたり尽力されたSITLI SIDELINES Film&TV Producers RepresentativeのJhon Iltis氏は「本当にすばらしい作品。家庭の中で何が起こっているのかをよく表現している。この問題は日本だけでなく、アメリカでも抱えている問題だと思う」と話している。 

チケット スケジュールは Music Box Theatre


アメリカでのキャリアを活かし、日本でも活躍中 ▽木藤 幸江さん


                                 文・宮本 佐織 / 写真・藤河 信喜

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