岡村善文総領事インタビュー記事

 2011年10月、在シカゴ日本国総領事館・総領事として岡村善文氏が着任した。新領事の取材に先立ってその人物像を探っていくうちに、いくつかのキーワードが見えてきた。“外務省の若きエース”、“最年少大使”、“抜擢人事”、“修羅場に強い男”、“策士”・・。50歳にして駐コートジボワール大使に抜擢され、日本とアフリカ諸国との関係強化に文字通り東奔西走した。アフリカ各国首脳や大使との絆も深い。任期終盤の2011年4月には、大使公邸が武装集団に襲撃され、フランス軍のヘリに救出されるという命の危険も味わった。その“タフガイ”が、初めてのアメリカ、それも中西部ハート・オブ・アメリカにいよいよ登場、である。


― 着任から約2か月。シカゴの印象はいかがですか?

 「シカゴの人たちはみな温かくて友好的ですね。ニューヨークやワシントンとはちがって、ビジネスライクなところがなく、人懐っこくておおらか。初めて会った人でも古くからの知り合いのように接してくれるのでほっとします。

 一方で、中西部はアメリカの中でも日本人にはまだまだなじみが薄い。先月に一時帰国した時に、日本の旅行代理店でアメリカの観光パンフレットを手にしてみたのですが、そのほとんどが「西海岸」「東海岸」、内陸部はあっても「ラスベガス」や「グランドキャニオン」というのがほとんどでした。

 しかし、実際に来てみてシカゴはとても発見の多い街だと感じています。様々な民族・人種が共存し、また摩天楼や歴史的な建造物、緑も多くJAZZやブルース、クラシックなど音楽にあふれた素晴らしい町です。
 管轄する中西部の州(※インディアナ、アイオワ、カンザス、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスダコタ、ウィスコンシン各州)へも、今実際に自分で足を運んで理解を深めているところです。」

 ― 前任地は内戦状態にあったアフリカのコートジボワール。約2年ぶり、しかも史上最年少での大使赴任と話題になりましたが。

 「特命全権大使」というのは、いわば日本国の代表です。在留邦人や企業の支援はもちろん、国家首脳との折衝などすべてを担うこの重要な任務に、私が若手の中から任命された意味はいったい何かとずいぶん考えました。大使とは何者か、若い者が大使を務める時に、皆さんは何を期待するのだろうか。そこで、日本にはあまり知られていないアフリカの国々の情報を、今まで誰もやったことのない新しい方法でわかりやすく伝えていくことは、私だからこそできるのではないかという考えに至りました。その結果、“あれ”を思いついたんですよ。」

 “あれ”とは、岡村氏が2008年の赴任から2年間続けたブログ「コートジボワール日誌」のこと。
大使の日々の活動を通して、コートジボワールやアフリカ諸国の政治や経済、民族や社会慣習、日本との関係、さらにプライベートに至るまでが惜しげもなく公開されている。大使自らがブログを書く斬新さはもちろん、その文章は読む者を惹きつける魅力があり、現場の匂いや緊張感までもが漂ってくる。

 「日本人がアフリカ諸国に抱くイメージは貧困や内戦などといった暗いものばかりです。しかし、実際の人々の暮らしはそればかりではない。活き活きした生活、興味深い文化や、ものの捉え方がちゃんとある。それを何とか伝えようと身の回りの小さな出来事を書き始めたのですが、いつの間にか「公開書簡」のようになって読んだ方から多くのコメントをいただけるようになりました。とにかく自分だけにとどめておくにはもったいないような新しい発見や面白い出来事が次々とやってくるものですから、書かずにはいられなかったんです(笑)。」

― 一方で、お立場上ここまで書いて大丈夫なのかと、はらはら(わくわく)する内容もありましたが、長く続けられた秘訣は何だったのでしょうか。

  「内容に関しては、読者の方に伝わるように、論旨を明晰に書くように心がけました。また、人を傷つけない、批判しない、主観が前にでない、この3点には細心の注意を払いました。お蔭で最後まで“炎上”することはありませんでした(笑) 当初は内部で反対されたり意見されたこともありましたが、すべての責任は自分ひとりがとると決めて始めましたし、作業を人に下請けに出すということも一切しませんでした。」(このブログは大統領選後の内乱とともに止む無く終了。そして冒頭の襲撃事件が勃発する。)

― “修羅場に強い男”といわれていますが。

 「自分ではそういう意識はないんですが(笑)94年のルワンダ大虐殺の直後、(日本政府が派遣したルワンダ難民救済部隊の政府調整員として)現地で指揮をとりましたし、99年のコソボミッション(ユーゴスラビアの紛争後のコソボ自治州の暫定行政機構)にも加わりました。そういった紛争地での経験が多いからだと思います。」


― その“修羅場”から今度はアメリカ中西部統括のシカゴへ。ギャップは感じますか?

 「全くありません。どのような国であれ、世の中の人の9割5分はとてもいい人たちなんです。そういう真面目な人々とのつきあい方は、どこでも同じです。誠意を尽くせば、ちゃんと伝わる。問題は残りの5分の人々で、彼らが悪さをして、それが紛争や戦争を起こすわけです。要するに、紛争となるかどうかは、5分の人たちの振る舞い次第、その違いだけです。とりあえずシカゴには“戦争”はありません(笑)」


― “シカゴ日誌”(ブログ)のご予定は?

 「よく聞かれるんですよ。ブログは難しいにしても、今ちょっと考えているアイデアはあります。今の時点では未公表です(笑)。」


― 昨年は大使公邸で自らピアノコンサートを開かれるなど多才でいらっしゃいますが、シカゴで新たに習得してみたいご趣味はありますか?

 「私は違う国に行くたびにそれぞれの国の良さに惚れてしまう。民族や文化、その全てに引き込まれて、その秘密を知りたくなるんですよ。結果やりたいことが多くなりすぎて、どれも中途半端に終わってしまうんです(笑) シカゴのJAZZやブルースもいいですね。まだゆっくり聴きに行く時間がないのですが、近々訪れてみたいと思っています。」


― 総領事として今後取り組まれたいことや抱負についてお聞かせください。

 「領事館の仕事は、在留邦人の方々への諸手続き対応や困ったときのお手伝い、中西部を通して日米の友好関係を強化するということに加えて、“情報の発信”機能が非常に重要であると思っています。日本のモノづくりの知恵、社会の作り方、動かし方には世界が注目していますし、今まさに世界がそれを欲しています。

 不幸にも今年、日本は大震災に見舞われましたが、その際に日本人が見せた秩序ある振る舞いや、自分のすべてを失っても人を助けようとする心の強さに世界が驚嘆の声をあげました。どのような外交官の宣伝よりも強く日本を印象付けたのです。

 一方で、世界各国から多くの支援もいただきました。今日の食べ物にも困っているようなアフリカの貧しい国々からも心からの支援が寄せられました。アメリカは“ともだち作戦”で、最も危険で過酷な任務を引き受けてくれました。これらに応えていくためにも、日本の強さ、良さをもっと外に向けて発信していければと考えています。同時に、日本人は自国の文化にもっと自信と誇りをもってもらいたいですね。

 また、日本の人たちにも中西部の良さを理解してもらい、足を運んでもらえるように働きかけていきたい。幸い、シカゴをはじめ中西部の都市には日本の企業が多く進出しており、日本文化の紹介や交流イベントなどを積極的に手掛けられている。領事館はそのバックアップ役に回って盛り立てていくつもりです。私自身もお招きがあればどこへでもご挨拶に出かけていこうと思っています。


― 2012年はどのような年になるでしょうか?

 「アメリカ大統領選挙の年でもありますし、5月にはシカゴサミット(G8)とNATOサミットが同時開催されます。シカゴに日本の総理を迎えるという大きな任務を、無事に果たさねばなりません。
 また、2012年はワシントンDCのポトマック湖に桜が植樹されてからちょうど100周年にあたり、ここイリノイ州でも“桜100周年記念事業”などが予定されています。詳細は未定ですが、年間を通じた大きなイベントになるでしょう。

 10州を管轄するので、多くの人々と会う仕事ですけれど、私は人と接することが好きなのでどんどんと外に出かけて行きたいと思っています。」

 大学時代に抱いた外国への興味と憧れから、外交官試験を受け合格。しかし、それまでパスポートすら持ったことがなかったため「こりゃまずい、とあわてて春休みにフランスへ旅行に行った」という意外なエピソードも。修羅場を歴任した屈強なイメージとは程遠い柔らかな物腰ながら、その眼からは力強いエネルギーが発せられている。どんな質問も正面から受け止めて自らの言葉で返してくれる人。幾多の修羅場を潜り抜けた“外交のプロ”が、シカゴに新しい風を運んでくれるに違いない。


2011年12月7日@在シカゴ総領事館総領事室

                        文責:長野尚子  写真:藤河信善



■岡村総領事略歴:
1958年1月 大阪府生まれ。
1981年4月 東京大学法学部卒業後、外務省入省。
1984年6月 在アルジェリア大使館三等書記官
1986年6月 防衛庁(現防衛省)防衛局運用課
1988年4月 外務省欧州大洋局西欧1課課長補佐
1990年8月 外務省原子力不拡散課首席事務官
1993年10月 在イタリア日本大使館一等書記官
1995年12月 在インド日本大使館政務参事官
1999年8月 国際連合コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)首席政務官
2001年1月 外務省総合外交政策局軍備管理軍縮課長
2003年2月 在フランス日本大使館政務公使
2006年4月 在ウィーン国際機関日本政府代表部公使
2008年9月 駐コートジボワール特命全権大使
2011月9日 在シカゴ総領事

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