ゴールデンスランバー:中村義洋監督

 10月に開催された第47回シカゴ国際映画祭には日本から5本の作品が参加した。人気作家伊坂幸太郎の小説を映画化したサスペンス映画「ゴールデンスランバー」の中村義洋監督に話を聞いた。

 舞台は仙台。大学時代の友人森田に久しぶりに会った宅配ドライバーの青柳に、森田は、「お前はオズワルドにされる」という謎の言葉を残して爆死してしまう。その直前に、オープンカーで仙台市内をパレードする日本の首相がラジコン・ヘリに仕掛けられた爆弾で暗殺され、青柳はその犯人に仕立てられ、逃亡劇が始まる。

 映画は、いきなりラストシーンから始まり、サスペンスとユーモアを交互に取り交ぜて軽快なテンポで進行する。映画の始まりがラストシーンだったということは、最後まで観て初めて分かる。


 サスペンス映画は、一定のスピードと緊張感を持続させることが必要だ。中村監督は、ユーモラスなシーンを随所に入れながら、緊張感を巧妙に持続させて行く。
「サスペンスとユーモアをうまくミックスするのが一番難しかったですね。回想シーンに入ると緊張感が取れてしまうので、映画が始まってからかなりの間、回想シーンは入れてないんです」。

 テーマは「人間の絆」だという。映画の冒頭で、森田が青柳に聞く、「人間の最大の武器は何だか分かるか?」、「習慣と信頼だ」。「人間の最大の武器は信頼ですから」。青柳もこう言いながら逃亡を続ける。

 青柳は、何者かに首相暗殺の犯人に仕立て上げられのだが、青柳を逃亡中に助けてくれる元恋人や友人、家族、職場の同僚たちは青柳を信じている。竹内結子が演じる恋人にも振られてしまったさえない男の青柳だが、憎めないキャラクターを持ち合わせていて、周りの人が助けてくれる。「周りの人が青柳を助けるのはやはり彼の人望でしょうね。ボクが彼の立場だったら誰も助けてくれないかもしれない・・・」。

 脚本は、中村監督と、友人で脚本家の鈴木謙一、林民夫。中村監督が書き、鈴木、林の両氏から助言をもらった。原作では最初のシーンの20年後から始まるが、他は原作からほとんど変えてないという。「原作はとにかく長いんです。原作を読んで一週間経ってから自分の思い出すことができる部分だけを映画化しました」。俳優が撮影中に脚本からセリフを勝手に変えた部分もあるという。俳優には自由に演技をやらせる監督のようだ。

 ブルース・ブラザーズの大ファン。「映画を志す前からブルース・ブラザーズのファンでした。だから、シカゴなら行ってもいいかなあと。シカゴは映画監督としてはそそられる街ですね」。

 連続殺人犯ながら、トリックスター的な奇妙な役柄で青柳を助けるキルオの役はジョン・ベルーシを意識して作ったという。キルオを演じるのは、やはり伊坂幸太郎原作で中村監督がメガホンを取った「アヒルと鴨のコインロッカー」で主役を演じた濱田岳。原作では、濱田を意識して伊坂幸太郎がキルオのキャラクターを作り、この映画でもキルオ役に抜擢した。

 小説が原作の映画はかなりあるが、原作者とケンカが起こる監督が多いという。伊坂幸太郎の小説の映画化はこれで3本目。言うまでもなく、伊坂さんは中村監督の作品を気入っている。「映画化する上で、大きな意味で原作者と共感できないと」。題名は、ビートルズの曲名から取られた。監督が好きなビートルズとブルース・ブラザーズを伊坂さんも好きなのだそうだ。伊坂さんとは、生まれた年も1年違い。世代も同じで、音楽も、物語の好みも一致して、息がピッタリと合っている。

 大学時代は映画研究部に属し、バンドでリードギターも弾いていた。

 「高校の時、伊丹さんの『マルサの女』を見て映画やってみたくなりました。『マルサの女』のメイキングの本を読んで映画作りは面白いと思いましたね」。映画の世界に入ってからは、伊丹監督の「スーパーの女」で助監督を務めた。

 大学を卒業して崔洋一監督に師事、映画作りを習った。「崔さんの映画は最初はそんなに強い印象はなかったんですが、『月はどっちに出ている』を見て、これはすごい監督だと思いましたね」。風貌も「師匠」の崔監督に良く似ている。

 監督デビューした後は、「ほんとうにあった!呪いのビデオ」シリーズを始めとしたホラーものを主に作っていた。ハリウッドでリメイク版「ダーク・ウォータ」が作られた鈴木光司原作の「仄暗い水の底から」は中村監督が脚本を書いた。

 藤野千夜の小説を映画化した「ルート225」からはホラーから離れてミステリー、サスペンス路線に。「『ルート225』の撮影の初日は体が楽だったんです。ホラーは体がキツイですね」。アメリカでもリメイク版がヒットした鈴木光司原作の「リング」の後、日本映画界は一時ホラー映画ブームだったが、今は低迷している。「今は、ホラーは少なくなっています。出つくしちゃったんじゃあないですかね」。

 この映画の最後の5分間が一番好きだという。何者かが青柳そっくりの男を成形手術で作り、青柳を犯人に仕立て上げた。青柳も、成形手術で顔を変え、何とか生き延び、最初のシーンで出てくるデパートで、元の恋人とその家族にエレベータの中で出会う。「堺(青柳役)と竹内(元恋人役)は映画では最後のシーンまで出会いませんから。撮影中もそのシーンまで二人を会わせないようにしたんです」。

 エンディングにかかるのは、この映画の音楽を担当した斉藤和義の「幸福な朝食、退屈な夕食」。伊坂幸太郎が、この曲を聴いてサラリーマンを辞めて作家になることを決意したといういわくつきの曲だ。この曲が、映画のエンディングにマッチしていて実にいい。

 ラストシーンでは、母親に言われて、エレベーターから走り出た娘が青柳の手の裏に、首から下げた大きなスタンプを押す。「よくできました」と押された赤い文字に大事そうに息を吹きかける青柳。

 洒落た演出のラストシーンから、人の絆の温もりが伝わってきた。


                                  文・熊谷 彰
 

ホーム | 初めての方へ | お問い合わせ | 投稿者&ライター募集中! | 規約と免責事項 | 会社概要

Copyright (c) 2005 US Shimbun Corporation. All Rights Reserved.