河村芳彦氏インタビュー記事

 米国三菱商事は、企業価値を上げ、国際的なビジネス・チャンスを創出する幅広いサービスを提供している。そんな米国三菱商事の上級副社長兼シカゴ支店長で、JCCC会頭としてもご活躍されている河村氏に、多忙なスケジュールの中、お話をお伺いすることができた。

−シカゴへ赴任した経緯

 シカゴへの赴任は2年前の6月でしたので、シカゴに来て約2年が経ちました。シカゴへ赴任するまでは、東京で担当役員と共にグループ人事関係の仕事を2年間くらいしていたのですが、そのままその仕事をずっとやっていくのか、もしくは、どこかに異動があるのかと思っていました。その中でアメリカに来るかも知れないということは漠然とは感じていましたが、特にシカゴ赴任を希望していたと言うわけではなく突然言い渡されたという感じでした。

 ワシントンD.C.やニューヨークでの勤務経験があり、今回で3回目のアメリカ勤務となります。シカゴに来てみてどうか言えば、住めば都と感じています。

 過去のアメリカでの勤務は東海岸が主で中西部は初めての経験ということもあり、当初は期待と不安の半々の気持ちでした。2005年の6月に赴任しましたが、ミシガン湖や通りに植えられている花などシカゴのすばらしい夏の雰囲気の時期に来たために、シカゴには気持ちよく来れたという記憶があります。また、シカゴには、夏と冬の2シーズンしかないと言われており、夏が終わるといきなり冬になるという季節感に驚きましたが、今ではとても暮らしやすいと思っています。

−赴任後の手ごたえと今後の展望

 仕事については、中西部はコンサーバティブな部分が残っており、ルールに沿って仕事ができ、トリッキーなことをする必要がないので、仕事をしやすい風土であると思います。また、英語についても、日本では中学生のころから中西部の英語を習ってきたので、わかりやすい英語で親近感があり、コミュニケーションが取りやすいと思います。私生活も仕事もそこそこに2年間やってきたなという感じです。

 三菱商事はシカゴでの歴史が50年程度あります。戦前はニューヨークと西海岸に事務所があるだけで中西部には事務所がありませんでしたが、財閥解体に遭い200社くらいの会社に分かれ改めて昭和29年に統合・合併した後、すぐにシカゴに事務所を置きました。

 現在では、鉄鋼関連の会社であるメタルワン、工作機械のMMS、インディアナの豚肉処理をしているインディアナ・パッカーズ、ロックフォードの亀田製菓との合弁事業であるTHフーズなど、その中で育ってきた事業が多くあります。シカゴでのここ10年くらいの仕事は、支店の外部に出して行くという流れになっているので、シカゴ支店の中で行う仕事は減っているのですが、私がシカゴに来た意味合いとして、既に作った仕事はともかくとして、新しい仕事を開発できないかというミッションで来ているということがあります。そういう中で、いくつかの目標を持って仕事を進めています。

 1つ目は、ニューヨークは金融や保険が中心ですが、シカゴにはアメリカを代表する大企業(製造業)が多くあり、特に自動車メーカーや部品、航空機メーカー、通信機器会社、印刷会社、食料関連など必ずしも三菱商事とは強い接点がない会社でも、新しい接点を模索するアプローチをしています。日本への販売協力でも投資でもいいので新しいことをやって行きましょうということで動いています。

 2つ目は、ノースウェスタン大学のような大学や州政府の研究機関との連携を通して、メディカル、BIO、エネルギー、IT等の先端技術への投資機会やライセンシングを検討しています。

 3つ目は、日系会社へのアプローチです。シカゴ地区の日系企業は約600社あります。日本からの投資は自動車関連が中心という中で、日系会社がアメリカで事業展開する際に何かお手伝いができればということで対応しています。例えば、昨年設立したパソナとの合弁企業である「パソナMIC」については、HR、IT、物流サービス等の総合アウトソーシングという切り口の事業ですが、私どもの日系企業へのアプローチの入り口になればと思います。

 4つ目は、国際化の支援です。いわゆる「The world is flat」の世界です。中西部の中小企業は、例えば中国やインドへ事業展開をしたい場合でもリスクを考えるとなかなか前に進みません。そこで、アンブレラ式に私どもの企業ネットワークを活用していただくことで、そのリスクを低減することができるのではないかということで、お付き合いをさせていただいています。

 5つ目は、自動車関連です。三菱自動車のブールーミントン・ノーマルの工場であれば、ささやかではありますが社販やディーラーのシステムを支援するということをしています。

 華々しくはないかも知れませんが、三菱商事としてじわじわと浸透していければいいと思いますし、商事に相談すると何かいいソリューションに繋がると思っていただけるようになって来たという少しばかりの感触もあります。

 大きな展望としては、やはり、中西部のみということではなく、アメリカ全体での活動や東京との関係の中で、日米関係の強化や会社全体としての機能の強化に繋がるような活動を心掛けています。そういう中で、投資などを通じてシカゴ発の柱が一つでもできればと思っています。

−シカゴの良いところ

 シカゴには良いところが幾つもありますが、1つは、人がきちんとしているということがあります。保守的という捕らえ方もあるかも知れませんが、同じような価値観を持ち、同じような行動様式がシェアできるので、仕事がしやすいと感じています。

 2つ目は、さすがにアメリカの大都会だけあって、ビジネスのインフラがきちんとしているということです。国際問題のシカゴ・カウンシル、シカゴ・エグゼクティブ・クラブなどの財界の集まりがしっかりしているのも特徴です。自分の相対的なポジションを確認することができ、また、各界のリーダーのお考えをよく知ることができます。

 3つ目は、これは、仕事とは関係ないのですが、ミシガン湖がとてつもなく大きく、インパクトがありますね。また、街と一体になっているところもいいところです。きれいな景色でとても気持ちよいです。

 4つ目は、オフの時間の充実です。食事、ワイン、芝居、シンフォニー、野球と、これほどオプションがそろっているところはなかなかないと思います。生活もなかなか快適です。

 一方、その良い部分の反面、冬は寒くて厳しいところです。また、貧富の差などの問題もあります。豊かなエリアの横に、アパートのアルミサッシが設置後すぐに盗まれるような貧しい地域が隣接していることもあります。アメリカの仕組みとして、いかに成功しているかが市場原理で決まるという背景がありますが、何かしらのゆがみを感じる時もあります。

−今までに乗り越えた障壁

 今までに苦しかったことはあったかも知れませんが、正直言ってあまり覚えていません。その時はとても苦しかったのでしょうが、突然にはなかなか思い出せないものです。いつも考えているのは、ロング・レンジでということです。何事もやるのは一歩からということで、大きな流れの中で目標を決めて順番に達成していくということが大切と思います。

 そのように考えていると、細かいことはあっても、大きく見れば個々の事象は覚えていないくらいのことになってしまうと思います。また、一時ガタガタしても、時間が経つと条件が変わり、いろいろ起こったことでもおさまっていく場合もあります。一つのことにいつまでもこだわらずに、視点を変える工夫をし、コントロールできるようにするということを心掛けています。

−仕事、人生で大切にしていること

 アメリカから教わったことは、「明るく前向きに」ということです。シカゴ支店は小さいオフィスですが、明るい雰囲気を作ったり、皆さんと不断に対話をしたりと、フレンドリーに明るくというのを基本にしています。スピーチでも、素敵なジョークを言ってみたり、笑いながらしたりと前向きに明るく、そして建設的にするように心がけています。アメリカは口頭でのコミュニケーションが大切な国です。好き嫌いやウマの合う合わないというのもあるかも知れませんが、仕事に限らず、人のいいところを見て褒めることが気持ちよく物事を進めるポイントと思います。

 また、若い時はプレーヤーとして邁進していたような気がしますが、歳を取るにつれてプレーヤーというよりも大きな方向付けをする、人をまとめていくということの役割が大きくなって来たと思います。近頃では、スピーチ原稿の準備や企業価値の評価などは自ら作業をせずに、人を育てるという意味で他の人にやっていただくことが多いのですが、なかなか成果物が上がって来ない時などには自分でやった方が早いのにと思いますが、じっと我慢という時もあります。

−余暇の過ごし方、趣味など

 結構ハードな毎日で、出張も多いし、ウィークデーはアパートに帰って寝るだけという感じです。平日は毎日昼・夜と会食が入り、そして、時々は朝にも会食があるという状況です。土、日には、野菜などを使って料理をします。ワインについては、あまり高くないもので美味しいものを研究しています。また、外で活動することが難しい冬の週末などは、本を読んだり音楽や芝居を見るなど文化的な時間を持つようにしています。体育的な面では、夏はゴルフをします。毎日の水泳も欠かしません。土、日はアスレチックをしたり、スカッシュをしたりもします。また、自転車については、街中は危ないようなので、湖沿いを走ることがあります。スポーツ観戦については、野球やバスケットなどを見ます。

−今後やりたいこと

 将来のことを考えて、一人になった時にできる趣味を作っていこうと心がけています。若い時には団体スポーツを好んでいましたが、近頃ではゴルフやスカッシュ、自転車などに興味が移っていますし、将棋や囲碁にも興味があります。

 また、他にやりたいことのイメージとしては、現在は日々時間に追われているので、時間の問題から開放されるようなことを想像しています。例えば、田舎にこもったりし、違う世界でのんびりと好きなことをやるといった感じです。そういう意味で、今年の夏にセイリングのレッスンに行ってみたのですが、確かに違う世界があり、そこに生きがいを見出している人も多くいました。そのような対極的なところに身を置くと、違う人生観が見えてくるかも知れません。

−US新聞読者へのメッセージ

 特に難しいことではありませんが、英語の勉強については考えるところがあります。

 日本で習った英語というのは中西部の英語ですし、また、大げさに言うと今も英語で飯を食っているという面がありますので、英語には尽きることのない興味があります。海外で生活していると、地域やコミュニティーによっては日本語のみでも生活できるところがあるかも知れませんが、生活のクォリティーは語学の能力に依存していることがはっきりとわかります。そういう意味で、米国で生活する限りは英語を勉強するということはとても大切なことだと思います。NHKの英語会話などのテキスト、教材は、ものすごく役に立つと思います。そこに載っている表現で相手と「おぬしできるな」と通じ合うといった場面を何度も経験したことがあり、毎月300円程度の投資ですから投資効率は非常に高いと思います。


  インタビュー中は、終始やわらかい語り口で親身にお話を頂いたが、大きなビジネスの荒波と厳しい社内外の競争の中で勝ち残ってきた背景が見え隠れしているように感じられた。


2007年8月15日@米国三菱商事 シカゴ支店
文章:鴻田/写真:藤河



河村芳彦(Yoshihiko Kawamura)氏経歴

生年月日:1956年8月20日

現職:米国三菱商事SVP兼シカゴ支店長

学歴:
1979年3月 慶応義塾大学経済学部 卒業
1992年6月 ケンブリッジ大学大学院 修了(Master of Economics、 Master of Philosophy in International Relations)
2005年5月 ハーバード・ビジネス・スクールAMP 修了
職歴:
1979年4月 三菱商事(株)に入社、人事部に配属
1984年10月 情報産業開発部
1988年1月 情報産業企画部
1990年6月 ケンブリッジ大学院(米国ケンブリッジ)
1992年7月 宇宙通信事業部
1992年12月 社長室会事務局
1995年8月 世界銀行(米国ワシントンD.C.)Private Sector Development Economist
1999年7月 金融企画部
2000年3月 米国三菱商事本店(米国ニューヨーク)社長室長兼米州業務開発室長
2002年4月 情報産業グループCEOオフィス室長
2003年4月 新機能事業グループCEO補佐(情報・通信セクター担当)
2004年4月 新機能事業グループCEO補佐(人事担当)
2005年3月 ハーバード・ビジネス・スクールAMP(米国ボストン)
2005年6月 米国三菱商事SVP兼シカゴ支店長




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