久枝譲治氏インタビュー記事

 この夏、日米交流のスペシャリストがシカゴに着任した。在シカゴ日本国総領事館・総領事 久枝譲治氏。1976年外務省入省以来、アメリカ勤務は、ワシントンDC、ニューヨーク、アトランタに続き今回のシカゴで4度目。前回のアトランタ総領事時代には、日・ジョージア関係の発展に対する貢献が認められ、ジョージア州より永世名誉市民の称号を受けている。

 シカゴ総領事館が管轄する中西部は、一般の日本人には比較的馴染みの薄い地域だが、国際交流のプロはこれをどのように日本との交流に繋げていくのか。久枝氏は、「月並みだが、要はビジネス、観光、文化交流の促進により、人と物との往来を増やすことだと思う」と述べる。「そのために、中西部の人が日本に関心を持つように働きかけ、また相互に訪問する理由を創出する工夫が大事。まず手始めに、あちこちで人に会うたびに、シカゴや中西部各地の魅力を訴えるよう努めています。」

 「人々がシカゴを訪問し、あるいは参集するきっかけを作ろう」という久枝氏の努力は、着任してわずか数週間のうちに少しづつ実を結び始めている。久枝氏の依頼により、10月初旬には、竹中平蔵元経済担当大臣がシカゴを訪問して講演する他、11月にかけていくつかのコンサートやシンポジウムの開催も決まったという。


 また、観光地としての中西部の魅力について、久枝氏は「玄人好みの観光地」と表現する。「シカゴはNYやロス、サンフランシスコのように派手な観光スポットは多くないが、美しく洗練された都会の町並み、歴史を感じさせる摩天楼、世界一華麗な響きを持つオーケストラ、日本にもファンの多いフランク・ロイド・ライトの建築、世界有数のコレクションを持つ美術館など、魅力的な事物にあふれている。シカゴは、米国の、そして世界の物流の中心地であり、活力と創意に満ちた街。洗練された都会の街をビジネスマンやビジネスウーマンがさっそうと歩く街。新任地はシカゴだと言うと、どこの出身のアメリカ人からもシカゴはいい所だよと言われました。」

 人との交流を大切にする久枝氏にとって、在中西部の在留邦人、日系人との繋がりも重要だ。米国内に14ある日本総領事館の中で、シカゴ総領事館の管轄州は、最多最大の10州。「広大な管轄地域に住む人々に総領事館をより身近に感じてもらうためには、総領事をはじめ館員が各地に出かけて行く機会を増やすことが最も重要」としつつ、「領事事務の出張サービスや、各地の大学やクラブでの講演を積極的に行いたい。また、日本語学校の運動会、入学式、卒業式、あるいは日本企業の各種式典や忘年会など、お招きを受けたら喜んで出かけて行きます」という。インターネットやメディアの積極的な活用も必須だ。着任後直ちに、総領事館ウェブサイトの総領事コーナーに、総領事の日頃の活動を紹介するための新たなページを設けた。

 久枝氏は、東京で勤務している時から、各地での大学や団体での講演会の依頼には積極的に応えてきた。大学の講演会では、「卒業後いかなる仕事に就くにせよ、英語は重要。今のうちに勉強して流暢な英語を身に付けてほしい」と大いにはっぱをかける。今回のインタビューでその真意をただしたところ、「学生に一生懸命英語を勉強してほしい、高い目標を持ってほしいとの思いで、そのように述べたが、重要なことは発音や流暢さよりも、発言の中身だ」という答えが返ってきた。

 アメリカ人と対話するときに重要なことは何かとの問いに対しては、まず「明確なメッセージ」と「明快な論理」であるとし、さらにスピーチなどでは、気の利いたジョークを必ず言うように心がけているという。「これは言うのはたやすいが、実行は難しい。私は、ジョーク本に出てくるようなわざとらしいジョークは好きでないので、日ごろ自分自身が経験し、あるいは見聞きしたエピソードなどで面白いと思ったことを書き留めておいて、後でジョークに仕立て上げて使うようにしている。原則として自作のジョークしか使わないということになるが、同じジョークを何度も使うわけにはいかないので、スピーチや挨拶が頻繁になると、ネタ探しに苦労します」と笑う。

 そんな久枝氏だが、自分自身の英語能力については「外務省の中では、決して上手な方ではない」と控えめ目だ。中高時代、英語はいつも学年で一番だったのに、オックスフォード留学時代で一番苦労したのは英語だったという。「まず、イギリス人のいうことが聞き取れず、会話に全くついて行けない。これを克服するために、様々な努力をしました」と、その時の経験を語ってくれた。

 高校生のAFS留学などでは、ホームステイや学校生活を通じて24時間いわば英語漬けの環境に置かれることになりますが、大学生以上では、なかなかそのようなわけにはいきません。そこで、暇な時は四六時中テレビにかじりついて、生きた英語を学ぶよう心がけました。これは大変役に立ちました。また、家庭教師を雇って会話力や作文力を磨いたことも、効果がありました。英国人の友人には、自分の使う英語が間違っていたら遠慮なく指摘ほしいと頼んでおきました。いつも筆記具を持ち歩き、実生活やテレビで出会った有用な英語表現をメモし、ネイティブスピーカーにひとつひとつ確認した上で暗記することを心がけました。この時作ったメモ帳は、今でも大切な宝物になっています。

 全てについて、綿密に計画し、全力投球でこれを実行するタイプの久枝氏を友人らは「凝り性」「何でも一生懸命やる男」と評する。これまでの任地でも、細やかな心配りによって創り出された久枝流のおもてなしを楽しんだアメリカ人は多い。アトランタ時代は、カーター元大統領夫妻、CNNの創設者テッド・ターナー氏、大リーグのホームラン王ハンク・アーロン氏、女優のジェーン・フォンダさんなど多くの著名人を公邸に招き、交流を深めている。こうした食事付きのおもてなしを外務省用語で「設宴」(せつえん)というが、これまでの全ての設宴は、「妻の存在なくしては成り立たなかった」と振り返る。「公邸の行事では、まず、全体のテーマまたはコンセプトについて、総領事館の担当者と徹底的に議論して決めます。それから、全体の人数、主賓をどなたにするか、それ以外のお客様をどうするかを決め、招待を開始します。返事のあったお客様の数をみながら、追加的に招待状を出し、最終的にその行事にふさわしい人数になるように調整します。音楽演奏など余興を入れる場合は、その準備もひと苦労です。スピーチの内容も考えなければなりません。食事のメニューについては、行事の目的や流れ、お客様の顔ぶれ、その時に入手可能な食材等を勘案しながら、料理人と妻と3人で相談します。席次の決定から、席札やメニューの印刷、当日の配膳やドリンクの出し方などの細かいアレンジに至るまで、公邸行事は夫婦の共同作業が多い。私の場合、妻なしには、とてもやっていけないと思います。」管轄地域の政財界のトップや文化人、各国総領事などをおもてなしする総領事公邸は、日本や日本文化に触れていただく重要な玄関口だ。日本国として恥ずかしくないよう常に総領事公邸の管理にも気をつけている。

 こうして日米相互理解の促進のために日々奮闘する久枝氏だが、趣味の時間を作る工夫も忘れない。そのコツは何ですかと質問すると、にやりとして「ひとつ、週末に寝坊しないこと。ふたつ、ゴルフをしないこと」と答える。「平日の朝は、1分間でも長く寝床にいたいと思うくせに、土日になると不思議に早起きできます。それは、週末にできるだけたくさんのことをしたいと思うからで、家族とのテニス、トロンボーンの練習、買い物、パソコンいじり、ドライブ、映画や音楽会鑑賞、野山の散策・乗馬など、それぞれ2時間もあれば十分楽しめる。早起きすれば週末に全部できる。ゴルフは、それだけで半日から1日かかるから、時間が勿体なくてしようがない。要するに私は欲張りなんです」と笑う。しかし、その週末も、公務でつぶれることが多い。各地の日本祭、日本語学校行事、日米関係団体の行事は、週末に行われることが非常に多いからだ。シカゴ総領事のポストは、管轄地域への出張が過酷なことでも知られる。それに耐えられるだけの体力も必要だ。ともあれ、公私ともにどん欲な久枝氏の総領事着任は、ウィンディーシティー、シカゴに日米親善の強力な風を吹き起こすことだろう。

                                  文・宮本 佐織 / 写真・藤河 信喜



久枝総領事略歴:

1951年生まれ。
東京大学法学部卒。
1976年、外務省入省。
オックスフォード大学留学。
本省では条約局、アジア局、北米局、文化交流部、報道官組織に勤務。
在外では、在米国大使館一等書記官、在フィリピン大使館公使、在NY総領事館首席領事、在アトランタ総領事(2002〜2005年)を歴任。
前職は、独立行政法人「国際交流基金」統括役。
家族は、夫人と娘2人、息子1人。
趣味は、ピアノ、トロンボーン演奏、蝶の収集、テニス等。

ホーム | 初めての方へ | お問い合わせ | 投稿者&ライター募集中! | 規約と免責事項 | 会社概要

Copyright (c) 2005 US Shimbun Corporation. All Rights Reserved.