“バイリンガルの子供の教育、進学、就職を考えるシンポジウム”

 6月2日(土曜日)、シカゴ日米協会主催(共催:JCCC、シカゴ日本人学校)イベント、「バイリンガルの子供の教育、進学、就職を考えるシンポジウム」が、シカゴ郊外のハーバーカレッジにて開催された。「バイリンガル教育における言語発達と児童心理」、「帰国時の中学・高校・大学入試情報の収集と海外滞在中の準備」、「今世界で求められる人材とは?バイリンガル人材のキャリアの機会を考える」という3つのテーマについて、それぞれの分野の専門家が語った。

 日系企業が多く進出しているシカゴには、現在1万人弱の日本人駐在家族が暮らしている。ひとくちに駐在家族といっても、駐在期間が2年以内の家族もいれば5年以上〜全く未定という家族までさまざま。しかし、どの家庭にも共通している悩みは「日本語教育を含めた子どもの教育問題」だ。それは駐在家族に限らず、永住家庭や国際結婚家庭においても同様の悩みでもあり、この日も150人を超える出席者が熱心に専門家の話に耳を傾けた。

親と子の会話のクォリティを高める努力を
 


 最初のテーマは、「バイリンガル教育における言語発達と児童心理」について。パネラーの札谷新吾氏(カレッジ・オブ・デュページ教授)、ピアッツアなつき氏(全米、および、イリノイ州認定学校心理士)が、そもそもバイリンガルの定義とは何か、完璧なバイリンガルは存在するのか、バイリンガルの子供たちの強みは何か、などについてさまざまな研究資料を引用しながらわかりやすく説明していった。
 バイリンガルの子供は、モノリンガルの子供と比べて集中力や観察力、文法の判断力などに優れているということが研究によって明らかにされているそうだ。また、いろんな人たちと触れ合う機会が多いため、自己中心的な考えをしないようになるという傾向にあるとも言われている。
 英語教育で苦しんできた親たちは、ともすると子供が当初英語を話せないことにあわててしまいがちだが、アメリカ生活の中で必ず子供は英語を話すようになりすぐに親を追い抜くので決して焦らないこと、英語で話しかけてくるようになった子供に対して無理に得意でない英語で答えようとせず、“自分の意思をきちんと伝えられる言語”で会話のクォリティを高めること、特に国際結婚などの場合は夫婦間で子どもとの意思疎通言語プランを明確にしておくこと、なども強調された。

 また、気になる日本語教育に関してだが、親との日常会話も含めできるだけ日本語に触れる機会を与えることや、子供が日本語を学ぶモチベーションを高めてやることがまず大切。そのうえで、「日本の子供たちと比べると特に漢字の習得では2年の遅れがでることが研究でわかっています。長い人生の中での2年間なので、ゆっくりと見守ってやることです」という札谷先生の言葉に、ホッとした表情を浮かべる母親も。
 
日本語の語彙力を増やす方法として、子供との会話の質を高める努力、例えば子供が返した言葉の意味を掘り下げて聞いてみる、ということも大切だとか。さらに、会話だけでは足りない語彙力を補うには、日本語の本を読ませたり読み聞かせるという方法しかないといい、親の普段の接し方やたゆまぬ努力が重要なカギとなりそうだ。

親ができるだけの情報収集をして早めに志望校をリストアップ

 続いてのテーマは、帰国予定の家族にとっては一番の関心ごとでもある「帰国時の中学・高校・大学入試情報の収集と海外滞在中の準備」について。
 長年、河合塾において受験情報誌の編集と進学指導を担当していた“受験のプロ”丹羽筆人氏(米日教育交流協議会代表)が、帰国時の中学・高校・大学入試情報収集と海外滞在中の準備について、詳細な資料とともに丁寧に解説していく。
 昔と比べると、日本では帰国子女の受け入れが進んできているとはいえ、出願条件や選抜方法などにはまだまだ多くの制限がある。それらをどうやってクリアしていくか、どの科目に重きを置いて準備をしていけばいいのかなどが事細かに説明され、熱心にメモをとる保護者の姿が印象的だった。
 ポイントとしては以下のことがあげられた。
@ 帰国生中学入試のための対策:まず受験科目(算数・国語)の学力向上を図る。毎日日本語で作文を書くなどして作文(漢字)の練習をしつつ、家庭内で正しい日本語を話すよう心がける。
A 帰国生高校入試・編入のための対策:補習校での4教科(国語・算数・理科・社会)に力を入れる。電卓を使うアメリカ式から脱却し、暗算の練習をする(計算のスピードをあげる)。日本式の「証明問題」に慣れる。
B 帰国生大学入試の対策:特に日本語での学科試験準備として「小論文」の準備をする。これには、常日頃から自分の意見を持つこと、さまざまな社会の出来事に関心を抱き理解を深めること、親から問題提起などをして関心を抱かせるきっかけづくりをしてあげることが大切。
 そのほかにも、英語のみで授業を実施している大学・学部や英語授業のみで学位の取得できるコースのある日本の大学の紹介や、帰国入学した日本の大学から逆に奨学金制度を使ってアメリカの大学に留学する制度や支援制度など、各家庭の教育・経済事情に応じた進路についてのさまざまな提案があり、内容の濃さに参加者は満足気な様子だった。

世界は今、“グローバル人材”を求めている

 最後のテーマは「今世界で求められる人材とは?バイリンガル人材のキャリアの機会を考える」。
 ここでは、米国パソナで企業のグローバル人材採用に携わっている高柳直人氏が、日米の雇用動向や米国への留学生動向、グローバル人材採用で求める資質、今世界で求められる人材、などについて解説。
 昨今アメリカでは、オバマ民主党政権が進めるアメリカ人雇用保護政策の影響で外国人の雇用(労働ビザの発給)が厳しくなっていることなどもあり、アメリカ企業は海外の現地法人での現地採用を積極的に行っており(日本、中国、シンガポールなど)、それには異文化や価値観の違いを正しく理解し行動に変えられる“グローバル人材”が強く求められているという。「グローバル人材になるには、世界のトップレベルの教育を受けることが一番の近道」と高柳氏は言う。すべての道は優れた教育から。それを支えるのは、つまりは親でしかないわけだ。

 2時間という短い時間で、これだけの充実した情報がぎっしりと盛り込まれ、明解な資料と共に提示されたことに、参加者は一同に満足の表情。終了後も、各専門家の前には個別の質問をしようと熱心な保護者の長い列ができていて、改めて異国での子育ての難しさや個々の深い悩みがうかがえた。
 一方で、この日の出席者を見てみるとほとんどが母親たち。父親の姿は数えるほどしかいなかったことに驚かざるを得なかった。バイリンガルの子供たちの教育の本当の“落とし穴”は、実はこの現実にあるのかもしれない。「子供の語彙力を増やすには、まず夫婦間の語彙(会話)を増やすことです」と場内の笑いを誘った言葉は、決して冗談ではないようだ。

            
             お話をされた専門家の方々。左から、札谷新吾氏、ピアッツアなつき氏、
                  丹羽筆人氏、山本真理氏(進行役)、高柳直人氏




                                      取材・文・撮影/長野 尚子


■お得情報
日本の大学の留学支援の取り組み例 (丹羽筆人氏の資料より)
早稲田大:無料特別講座。授業料免除の派遣留学。渡航費補助。
一橋大:英オックスフォード大留学。最大350万円補助。
明治大:正規授業で留学準備講座開設。
慶応義塾大:奨学金制度拡大。米留学支援団体常駐の相談窓口。
麗澤大:最大30万円給付の奨学金制度開設。
同志社大:奨学金で最大30万円を補助。
京都大:IELTSを学内で実施。
広島大:1年生対象に参加費用5万円で2週間の語学研修を実施。

「グルー・バンクロフト基金」
日本の高校卒業生がアメリカの一流リベラルアーツ・カレッジに4年間留学するのを援助する奨学金制度。
この奨学金には返済義務はない。その他、当基金留学生を対象にさまざまな支援をしている。
http://www.grew-bancroft.or.jp/

シカゴ・バイリンガル子育てグループ」
札谷新吾氏が中心となって開設した、バイリンガルの子供の教育にまつわる様々な個別の問題を共有していくためのネットワーク。
連絡先は札谷新吾先生まで→メール宛先 satsutan@cod.edu


■パネラー紹介
札谷新吾氏:カレッジ・オブ・デュページ教授、イリノイ日本語教師会会長、全米日本語教師会理事
立命館大学理工学部土木工学科、文学部哲学科を修了卒業後渡米。デュペイジ大学人文学部教授。全米日本語教師会理事、同会長を経て2008年全米最優秀日本語教師賞(大学の部)受賞。日本語教育関係一般の事業に精力的に関わりながら、3歳と6歳の2人の娘を持つ父親としても、近年、日本人子弟の継承日本語教育、就学前児童の日本語環境整備に特にその関心を注いでいる。

ピアッツアなつき氏:全米、および、イリノイ州認定スクールサイコロジスト(学校心理士) ロヨラ大学院在籍中に、現地校のバイリンガルテューターやシルヴァンラーニングセンターでアメリカ人対象のリーディング、ライティング、数学のインストラクター、オークトンコミュニティカレッジの講師などをつとめ、スクールサイコロジストになる。現在、North DuPage Special Education Cooperative所属、現地公立校Bloomingdale School District 13のスクールサイコロジストとして、学習心理発達の審査をしている他、州 内の日英バイリンガルの子供の学習心理発達の検査や相談、国内外からの子供の発達相談にも応じて いる。対象は幼児から高校生まで。

丹羽筆人氏:米日教育交流協議会代表
河合塾で十数年間にわたり、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。1999年に米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務めた。2006年に「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。さらに、河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザーとして帰国生大学入試情報提供と進学相談も担当するとともに、文京学院大学女子中学校・高等学校北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師も務める。

高柳直人氏:VP, Corporate Strategy Pasona N A, Inc.
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校経営管理学部卒業 (Bachelor of Science in Business Administration)。1998年米国パソナ入社。コンサルティング、リクルーティング業務を経て、2000年より営業部配属。支店、地域(西海岸)管理を経て、2004年より営業統括責任者(V.P. Business Development)。アウトソーシング事業部発足と其の事業展開に携わる。2007年よりCorporate StrategyのVPとして国境を越えた人材の流動、紹介、グローバル人材の採用などの新規事業を展開。

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