日本映画「The Winds of God--KAMIKAZE」を観て


12月9日、映画上映後、今井雅之氏、アーリントン・シアターにて、舞台 挨拶。 「戦争は決してあってはならないと願いを込めてこの映画を作った。」との力強 い英語のスピーチが観客の心に響く。
 12月7日、厳寒のシカゴ郊外アーリントン・ハイツ・シアターにて、かねてか ら見たかった日本映画「The Winds of God--KAMIKAZE」を6人の日本人の中学生 たちと一緒に見た。アメリカで平和に生活する彼らに、戦時中の極限下における 日本の若者の生き方を知ってほしかったからだ。

 今井雅之氏が監督、主演してい るこの映画のオリジナルとなったお芝居は、1987年に今井氏がシナリオを執 筆して以来、20年に渡って日本、世界各地の舞台で上演され、広く知られてい る。


 ストーリーは、ドイツ系アメリカ人のマイクと日本人とアメリカ人のハーフ、キ ンタの売れないコメディアン2人が、ニューヨークで交通事故にあい、前世の神 風特攻隊兵士として、突如、太平洋戦争の終戦15日前にタイムスリップしてし まうというもので、全篇英語で演じられ、日本語字幕がつく。
 
  私が戦争小説や過去の映画で抱いていた太平洋戦争中の日本の軍人のイメージ は、もっとドロドロとして、厳格なものだが、この映画の中の軍人たちは、人間 味に溢れている。渡辺裕之扮する厳しさを全面にだした山田分隊長。彼は部下を 日々失っていく苦しみを千葉真一扮する太田飛行隊長に正直に訴える。 「第2次世界対戦下の日本の軍部がどのように精神的に追い込まれていったかの 心理状況を映画の中で詳しく、わかりやすく描かれていたので、状況を知らない 中学生や外国人でも理解しやすいのではないか。」と観客の1人が的確に指摘す る。

 また、彼は、「現代のアメリカ人が急に日本人になってタイムスリップする という奇想天外な幕開けも面白く、我々以上に子供たちをも惹きつけ、受け入れ やすいものにしているのではないか。」とも語る。主人公たち二人がコメディア ンなので、随所にでてくるコミカルな台詞やシーンの設定で、暗く重々しい戦争 というテーマを受け入れやすくしている。 しかし、上官と下の軍人との関係がかなりソフトに描かれていることに疑問を 持った私は、そのことを12月9日の上映後のレセプションの場で、今井氏にな ぜなのか尋ねた。

 今井氏は、彼らの人間的な部分を映画で描きたかったからだと いう。10月30日のアーリントン・ハイツ市で行われた講演会で、今井氏は、 製作にあたり100人以上もの元神風特攻隊に取材・調査していくうちに、特攻 隊に対して同氏が抱いていた”クレイジー”なイメージは戦後教育によって歪め ら れた結果ということに気が付く。誰一人「天皇陛下万歳!」と叫びながら死んで いったのではなく、最後に頭に浮かんだのはみんな全員「お母さん」だったとい う。

 芝居を通して、神風特攻隊の真の姿を伝えていきたいという一心で「The Winds of God」を製作した。(11月3週目、ウィークリー・ジャングル誌より ) また、7月のウィークリー・ジャングル誌の今井氏へのインタビューで、元特攻 隊の細川さんが、今井氏に「(略)特攻隊として選ばれたものは、そういった追 い詰められた局面で、『お母さんを護りたい、家族を護りたい』というただその 一念で自分が防波堤になることを決意して特攻に赴いたんだ。」と語ったとい う。(7月3週目、ウィークリー・ジャングル誌より)特攻隊を志願した人々の そのような純粋な尊い心をこの映画は、代弁している。

 決死の覚悟で1人1人とミッションに赴く仲間たちを見送る今井氏扮する主役の マイクと松本匠扮するキンタの絶望的な思いに、私たちも寄り添いながら、物語 は進む。印象的なシーンは、マイクが、若い生真面目な山本少尉に「(特攻の ミッションに)行くな!」と激しく留め、行くのをなじったときの山本少尉の真 実の心の叫びだ。「僕だって死ぬのがこわい。」「平和な時代に生まれたかっ た。」この彼の重い言葉は、私たちがどんな言葉で諭すより、子供たちに響くの ではないかと思う。今、思い切り好きな本を読んだり、スポーツをしたり、友達 と遊んだり、納得のいくまで勉強ができる幸せを自覚できたのではないか。い や、私たち大人自身が自覚せねばと思う。

 キンタがマイクと星空を見上げながら、「こんなに星がきれいなんて、自分達の 時代では思わなかった。」とキンタは言う。キンタは、生きて再び現代にもどっ てこれるのだろうか。最後まで特攻隊に真っ向から反対したマイクはどうなるの だろう。ぜひ映画を観て、結末を確かめてほしい。 上映後、立ち上がるやいなや、一緒に観ていた中1の1人の男子が、「ために なった映画だ・・・平和だということがいかに大切かということがわかった。」 とぽつりと言った。

 歴史オタクで太平洋戦争に関する本を熟読している中1の息 子は、映画を観て、今まで自分が抱いていた「(神風)特攻隊のイメージは変わ らない。特攻隊の役になっている人たちの迫真の演技がすごい!」ともらした。 映画の中で、特攻隊が敵艦に突っ込む瞬間は、つねに白黒の実像が使われていた ので、リアルに私たちの心に迫ってくる。そして、息子は、「これ(この映画) を観て、やはり戦争とは、人間が作り出した最悪な物だということを実感し た。」とその日すぐに日記に記している。

 映画を観て、感動したのは、勿論日本人だけではない。日本文化に造詣が深い ハーパー・カレッジの英語科の教授、アンドリュー・ウィルソン氏は、「神風特 攻隊を込み入った手法で、ヒューマニスティックに描いている、とてもいい映画 だと思う。歴史に対して、ビック・ハートを持ったいい映画だ。多くのアメリカ 人が第2次世界大戦中の日本のことを知らないのではないか。おそらくドイツの ことしか頭にない。アメリカ人は、「カミカゼ」というと、日本軍から洗脳さ れ、ロボットのように死ぬことが幸せだというクレージーな集団だと思い込んで いると思う。しかし、それは、真実ではない。彼らだって、母親や家族を思い、 未来を信じ、死ぬことを恐れたというヒューマニスティックな1人の人間だった ということをこの映画は描いている。そういう意味で、この映画を多くのアメリ カ人に観てほしい。」と語った。

 映画を観た帰り際、驚いたことに、中学生の男子1人が、もう1人の友達に、 くったくのない笑顔で、ごくごく自然に、特攻隊員がしたように、右手を額につ けて敬礼をしながら挨拶をした。その瞬間、その曇りのない笑顔が、なぜか特攻 隊員としてのキンタの笑顔とダブった。映画を観ながら、アメリカに住む現代の 日本人の中学生の彼らの心もマイクやキンタたちと共にタイムワープして、神風 特攻隊の1人になっていたのかもしれない。今後、彼らがこの映画のことを心の 片隅に置きながら、アメリカあるいは日本でたくましく生きていくことを願う。

 今回のロードショーは、今年4月ロス・アンジェルスを皮切りに、デトロイト・ シカゴ・ニューヨークなど全米10都市で上映。 シカゴは、アーリントン・シアターにて、12月13日まで。上映時間 3: 00、5:45、8:30pm ウェッブサイト:www.TheWindsOfGod.com




今井氏、舞台挨拶の後、レセプション会場にて、
映画を見に来た観客やファ ンと交流。 1人1人と
気さくに言葉をかわし、みんなと写真におさまる今井氏。

                     記事 馬場邦 子 写真撮影 馬場邦子、アンドリュー・ウィルソン


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