「ゴジラ」の歴史と、ヒューマニティーの喪失。アニメに学ぶ日本文化
〜中西部最大の漫画・アニメ・ゲームの祭典「アニメ・セントラル」


日本が誇るアニメ文化を世界に
 日本のアニメやマンガなどのポップカルチャーをテーマとした、中西部最大規模のコンベンションイベント、「アニメ・セントラル」(略して“ACen”)が、5月16日から18日までの3日間、シカゴ郊外の“ハイアット・リージェンシーホテル・オヘア”で開催された。
 日米のアニメ・マンガ・ゲーム業界からのゲストを迎えたイベントをメインに、関連作品やグッズの展示販売、コンサート、サイン会、コスチュームイベント、ビデオ放映、パネルディスカッションやワークショップなどがほぼオールナイト(最終日は正午から午後5時まで)続くというスケジュールのなか、思い思いのコスプレを施した何万人という参加者が会場内外を練り歩く異様な空間は、さながら「国境のないマンガ村」のよう。
 
 アニメやゲームと聞くと、オタクのものという偏見を持つ人もまだまだ多いだろう。だが、アニメをはじめとした日本のポップカルチャーは、今や世界に誇れる教育的・文化的相互理解の重要なツールとなっている。日本のカルチャーを知りたい、日本語を勉強したいと望む外国人の若者のほとんどが、日本のアニメやゲームから触発されているからだ。“クール・ジャパン”とも呼ばれるソフト面がこれほど観光誘致に貢献している国は、世界でもまず例を見ない。

    日本から参加した7人組ユニット”Wake up, Girls!”のコンサートには、多くのファンが詰めかけて熱い声援をおくった

“ゴジラ”は日本の歴史とともにあり。
 そのような「ニッポンオタク」も多いこの“ACen”でファンが楽しみにしているコンテンツが、アニメや日本文化に関するレクチャーだ。3日間で合計約500コースものレクチャーやワークショップが開催されたが、いずれもそそられるタイトルばかり。「アニメやマンガに見る日本の民話や神話」、「日本のアニメVSホラー映画」、「Yaoi(男性同性愛を題材にした漫画や小説などの俗称)の研究」、「織田信長とは?」、「アニメ本をネットで売る方法」、「コスプレメークのノウハウ」・・・・などなど。テーマも驚くほど幅広い。


 そのひとつとして、在シカゴ日本国領事館が主催したのが
「Calling All Monster Fans: Godzilla, Mothra, Gamera and the Loss of Humanity in the Technological Age」(怪獣ファンの皆様へ:技術化時代における、ゴジラ、モスラ、ガメラ、ヒューマニティーの喪失)と題されたレクチャーだ。
 
 「ゴジラ」に代表される日本の古き怪獣映画の魅力は、特撮というテクニックだけではない人類共通の大きなテーマ、つまり「私たち人類はいかにして自然と共存し、人類同士と関係性を保っていくべきか」を、見る者すべて投げかけているところだった。しかし、撮影技術の発展とともに娯楽化が進み、人間的なテーマは次第に見失われていった。その矛盾や葛藤を考えよう、という実に奥深い内容だ。

 講師は、ミルウォーキー大学・外国語学科・日本語プログラム助教授のジェイソン・ジョーンズ助教授。彼自身、少年時代に夢中になった“ファイナル・ファンタジー”をきっかけに日本語や日本文化に傾倒し、日本政府の「JETプログラム」(語学指導等を行う外国青年招致事業)で2000年に渡日、その後大阪大学で言語文化学の博士号を取得した経歴の持ち主。博士論文では「ハリウッドが日本映画をどのようにリメイクしてきたか」をテーマに、映画の背景にある歴史や文化の“翻訳”に鋭く切り込んだ。 
 このレクチャーでは、1954年に製作された「ゴジラ」の第1作をはじめ、その後のシリーズの重要なシーンをスクリーンで見ながら、各々の作品が作られた当時日本が置かれていた状況を振り返っていった。広島・長崎の原爆体験を経て、戦後の目覚ましい経済復興を進める日本、そのさなかに起こった「第五福竜丸事件」(ビキニ環礁でアメリカが行った水爆実験で日本の漁船が被爆した事件)。これらがすべてゴジラからのメッセージとなって重くつきつけられていることに気づかされ、「ゴジラは人類に何を伝えたかったのか」という思いにたどり着く。


1954年11月3日公開 製作/東宝




 さらに、東京湾に現れたゴジラが次々に破壊していく東京の町は、第2次大戦での米軍による大空爆と同じ経路をたどっていること、病院のシーンが、原爆被爆者が手当てを受ける病院の映像を彷彿とさせること、などから「ゴジラは戦後復活した日本を過去に引き戻すために現れたのでは」、という興味深い分析も。
 一方で、ゴジラに対峙しているのは徹頭徹尾、「日本政府・日本人」であることから、「Godzilla is Japanese problem」→ゴジラは日本の問題であり、アメリカの問題ではない、被爆の後始末は自分たちがしろ、というアメリカのスタンスも皮肉られているのではないか。そのためハリウッド版のゴジラは“アメリカが撒いた種”ではなく、原因をさらにグローバルな問題として広げようとしているのではないか、という解釈は新しい視点をもたらしてくれた。







参加者が積極的に手を挙げ、白熱した議論が交わされていく。まさに”授業”。

 「ゴジラ」は怪獣映画であると同時に反戦、反核映画でもあることを再認識させてくれたレクチャーだった。
 時まさに、ハリウッド版の2作目となる「Godzilla」が前日の5月16日に全米公開されたばかり。映画の評判はすこぶる良く、週末の興行成績も独り勝ちといった状態だ。レクチャーに参加した10代から60代までの約90名のほとんどがすでにこの映画を見ていたことからも、彼らがいかにゴジラファンであるかがうかがえる。また、質疑の内容からも、彼らが「ゴジラの歴史」をきちんと把握し、研究していることもわかった。

 “Acen”は初めての体験だったが、その一見華やかな“祭典”の中で思いもかけないほどの深い議論が聞けたこと、しかも非日本人同士が議論していることに感動すら覚えた。マンガやアニメから日本に興味を抱き、日本を学び、さらに自国や世界を外からの視点で見つめ直す。学校では教えてくれないことを学べるのが、アニメの力なのだ。
 今年はゴジラの第1作目が公開されてからちょうど60周年にあたる。日本ではハリウッド版の新作が7月25日に公開される予定だが、公開の前にゴジラ史上で常にベストと言われ続ける第1作目をぜひ見て、ゴジラが残した”意味”を自分なりに考えてみるのも面白いだろう。


  
               (2014年5月18日/文責/撮影 :長野尚子 Text/Photo by Shoko Nagano)



●アニメ・セントラル(Anime Central)
日本のアニメや文化を深く知ってもらう目的で、非営利団体の「MAPS (Midwest Animation Promotion Society:中西部アニメーション促進協会)が協賛し、イリノイ州が開いているイベント。興味を同じくする人々が出会い、議論をする場でもある。1998年に第1回が開かれ、年を追うごとに参加者や規模も拡大している。2012年の参加者は約2万5000人。コンベンションはすべて、熱い志を持ったボランティアで運営されている。パネルディスカッション、ゲストによるサイン会、アニメやマンガ関連商品の販売、ビデオルーム、仮面舞踏会などのスペシャルイベントなど、さまざまなプログラムが用意されている。

●「ゴジラ」レクチャー講師紹介
ジェイソン・ジョーンズ助教授
ウィスコンシン大学「日本語・日本文化」助教授、日本映画の専門家、翻訳家、映像翻訳者。
シカゴのディポール大学にて日本語・日本文化の学士取得後、大阪大学で言語文化学の博士を取得。日本在住歴は12年。西欧における日本文化の受け入れ・適応と、日本における西洋文化の「ジャパナイゼーション(日本化)」を軸とした研究を行っている。“ゴジラシリーズ”で見られる怪獣の変貌、そして変わりつつあるその意味性を追究した研究書「Godzilla is dead: How Capitalism Killed Meaning in the Monster」(『ゴジラ死す。:資本主義はいかに怪獣の存在意味を殺したか』)を現在執筆中。また、日本における西欧ワイン文化の受け入れに関するプロジェクトも従事中。
「ウィスコンシン大学は日本語を学ぶ生徒も多く、現在も増えています」(ジェイソン教授)

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