多佳子さんのイリノイこぼれ話

著者略歴 デイ多佳子

神戸出身。滞米生活21年目を迎えたフリーランスライター。カリフォルニアはバークレーに始まり、サウスダコタ、イリノイと東進して、いよいよイリノイ生活が一番長くなりました。シカゴ・イリノイ大好き人間です。最新刊「観光コースでないシカゴ・イリノイ」(高文研)が日本全国の書店、及び在米日系書店、アマゾンで発売中。

ホームページ 
www.southwind.us/cinderella/


バックナンバー


                     
 石の豊饒、満つ光

 春の一日、シカゴ近郊の異世界で、心を遊ばせてきました。 

 まずは、シカゴの西、日本人も多く住む町、ホフマンエステートの南、バートレットにあるヒンズー寺院、BAPS Shri Swaminarayan Mandir です。

北米で最大のヒンズー寺院だそうな。トルコの乳白色のライムストーンで造られ、微細かつ濃厚、豊満な女神像が刻まれたゲートをくぐると、心はもう、シカゴから時差ちょうど12時間のはるか遠いインドの大地に飛んでいました。 

 最初に案内されたのが寺院に隣接しているカルチュラルセンター。伝統的なインドのHaveli建築で造られ、建物の正面や内部の天井は、これまた精巧な象や孔雀、蓮の花の木彫りの装飾でおおわれています。その見事さに心を奪われ、目を離すことができません。そんな時、隣にいた年配のアメリカ人が若いインド人男性の案内係に何と尋ねたかーこれって、機械で作るんですかあ。。おお、アメリカ人よ、だから嫌いなんだよ。。(笑)そういえば、昔、サウスダコタで土門拳の写真展をしたときも、京都の仏像の写真を見て、おんなじ質問をした学生がいたよな。。。呆れて声も出ない、というか、がっくりです。(笑) 

 絶望的な(笑)客からは距離をとりたくて、一人勝手に寺院に入っちゃいました。(ああ、これまた、絶望的!な私です。。。笑)そこは、冷たい冷たい石の世界でした。寺院の外壁はトルコのライムストーンですが、内部はすべてイタリアの大理石。触れると、指先からずううんと身体の芯まで沁みて、頭の頂きまで痛みが走るような非情な石の冷たさに、32年前一人訪ねて忘れられず、5ケ月ほど前、娘とともに再訪したインドのタージマハールの大理石を踏んだ時の、あの足の裏の感触が再びよみがえりました。また、来ちゃったよ。。思わず、言葉が漏れました。 

 イスラムの影響を受けたようなアーチやら、ドームを支えている151本の柱や天井に壁と、床以外のすべての大理石、7000トンを超える石に施された精巧な彫刻群―インドで400人以上もの人々が、2年以上かかって彫り上げた神々の姿。。そんな冷たく硬い白亜の世界で身を投げ出し、床に唇をつけながら、目の前に立つ、金色の帽子に赤い服をまとい、白い顔に大きな目をしっかりと見開いた「神様」に祈りを捧げている男性がいました。 

 霊的な場所、という感覚を久しぶりに味わいましたが、その一方で、インドでぶつぶつ言った娘の声も聞こえてきました。ここはToo much, Too much。。。そうかも知れない。美しい彫刻を通して、生の喜び、生きるエネルギーがあふれんばかりに満ち満ちた寺院では、葬式は執り行われないとか。死は受容できない世界なのでしょうか。ここはToo much, Too much。。。冷たい豊饒の石の世界を出て、ほっとしたのも事実です。

 インドへ行くと必ず病気になるので、ああ、もうこんなとこ、二度と来ないぞ、と一度は思うのですが、帰ってきてしばらくすると、なぜだかまた行きたくなる。。ここはToo much, Too much。。。心がつぶやき続けるだけのエネルギーをもっているからこそ、絶対に逃げられないような気がするのです。 


 インドの魔力に再びとりつかれながら、次に向かったのが、バートレットから南下、88号線のライルにあるベネディクト派カソリック僧院、St. Procopius Abbeyです。1885年、ペンシルバニアから来た僧たちが、シカゴのチェコスロバキア移民たちとともに働き、祈るために作った共同生活の場、コミューンです。僧院と聞いて、中世ヨーロッパのくらあい、粗食と質実剛健な世界を想像していたのですが、なんのなんの、窓から差し込む光線の効果を計算しつくし、鋭角のラインで空間を切り取った、シンプルでモダンな現代的建物でした。

 これまた開いた口がふさがりません。なんとAmerican Institute of Architectsから、全米でも傑出した建築の一つとして表彰までされた建物ですから、ええっ、ここが僧院なの、こんな美しいところに住めるなんて、モンクさんたち、贅沢なんじゃないの、が、第一印象です。(笑) 

 さすがにここでは、アメリカ人たちも神妙な顔をして静まりかえっていました。建物の幾何学的なデザインによって、窓はうまく視界から隠され、見ることはありませんが、どの部屋にはいっても、頭上のどこからか外光が射してきて、隅に置かれたキリストの木像やら、マリアを描いた大きなタペストリーに降り注ぐように計算されています。くっきりと際立つ光と影のコントラストが、神の降臨を象徴しているのでしょう。 

 建物自体もさることながら、僧院の内部は美術館のようです。部屋の一つは、日本人クリスチャンの型染版画家、渡辺禎男に捧げられたかのようで、彼の作品だけが15ほど展示されていました。聖書の世界をモチーフにした大胆な線使いとユーモアあふれる作品に、クリスチャンではないけれど、ときめくように惹きつけられたのはやはり、日本の伝統工芸、染織の手触りの温かさを作品から感じたからでしょう。 

 僧院にはゲストルームまであって、宿泊も可能です。女性でもOKだそうです。朝6時起床、夜9時就寝、朝食と夕食は沈黙の時間。きっとそのあいだに、祈りの時間が何度もあるに違いありません。

 こんなシンプルで美しい建物の中で丸一日を過ごしてみたいけれど、一人ではちょっと寂しいよな、とか思ったものですから、ああ、もうちょっとで、友人同士とかカップルでも泊まれるんですか、なんて、聞きそうになりました。(笑)

 尋ねてたら、神妙な顔をしているアメリカ人、呆れて声も出ない、というか、がっくりというか、案内係の黒い僧服を着たモンクさんなんて、怒りだしてたかも。。(笑) 

 インドとヨーロッパ、豊饒とシンプルのあいだで、自分だけの非日常の心の空間を探した午後でした。 


                               バックナンバー


ホーム | 初めての方へ | お問い合わせ | 投稿者&ライター募集中! | 規約と免責事項 | 会社概要

Copyright (c) 2005 US Shimbun Corporation. All Rights Reserved.