多佳子さんのイリノイこぼれ話

著者略歴 デイ多佳子

神戸出身。滞米生活21年目を迎えたフリーランスライター。カリフォルニアはバークレーに始まり、サウスダコタ、イリノイと東進して、いよいよイリノイ生活が一番長くなりました。シカゴ・イリノイ大好き人間です。最新刊「観光コースでないシカゴ・イリノイ」(高文研)が日本全国の書店、及び在米日系書店、アマゾンで発売中。
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                   第13回 ビビビー玉の輿はどっち。

 シカゴから西へ小一時間。フォックスリバーのほとりの瀟洒な町バタービア。その町の閑静な高級住宅街の中に、かつての医療施設「ベルビュー・プレース」があります。精神を病んだとされた、第16代大統領アブラハム・リンカーンの妻、メアリが収容されていた病院です。病院といっても立派な邸宅の観ありで、上級階級の女性患者のみ収容された私立の医療施設でした。今はベルサイユ宮殿のようにコの字形の造りに部屋が並ぶ、前庭を共有する感じのいいアパートになっています。たえまなく鳥のさえずりが聞こえてくる気持ちのいい場所で、やっぱり元大統領夫人が入院するだけのことはあるよな、と思わずつぶやいてしまいました。

 メアリがここにいたのは、夫が暗殺されてからちょうど10年が経った1875年5月20日から9月11日までのほぼ4ケ月間です。ほんとにメアリに精神疾患があったかどうかは今だに医者や学者たちが議論しているようですが、平凡な女として思うことはただ一つ。リンカーンと結婚したメアリの人生は幸せなものだったのでしょうか。

 もともとメアリは感情の起伏が激しく、ヒステリーを起こす性格で、悪妻の代表のように言われてきました。面白がって世界史上の悪妻番付をつけると、東の横綱がソクラテスの妻、西の横綱がリンカーンの妻だそうな。(猿谷要 「アメリカを揺り動かしたレディたち」83ページ) 

 
メアリの気難しい性格に辟易することもあっただろう夫リンカーン、時にはかつての日本のサラリーマン並みの帰宅恐怖症候群に襲われ、おかげで仕事に打ち込んで、大統領にのぼりつめたような感もなきにしもあらずですが、メアリとリンカーンの育ちを考えると、やっぱりメアリがヒスを起こす気持ちもわかろうというものです。

 メアリは、ケンタッキー州レキシントンの名家の出身です。部屋数16の二階建ての大きな家には、ケンタッキー州の有力な政治家や経済人がいつも出入りして、活発な政治談議がとびかっていました。もちろん家には奴隷もいました。

 
政治を身近に感じながら、何不自由なく育ったメアリ。活発で頭もよく、どちらかといえば、口も悪かったようですが、悪気はなく、とにかく感情を隠せず、衝動的に行動するタイプで、いつも"面白い"ことを探していた様子。回りにいる若い男たちにはほとんど興味を示さなかったとか。学者タイプの知性派が多く、退屈だあ、って感じだったのでしょう。

 
14歳から入った寄宿学校で、フランス語にダンス、乗馬と、レディになるべく教養を一通り身につけたメアリ。ちょっと冒険心でも出したのでしょう。元イリノイ州知事の息子と結婚していた姉を頼って、1839年、イリノイの州都スプリングフィールドへ。 そこで、恋に落ちたのが同じケンタッキー生まれで丸木小屋育ちのリンカーン。婚約、破棄、はたまたよりを戻して、と大騒ぎして1842年に突然結婚したわけですが、リンカーンのどこがそんなに“面白かった”のかなあ。

 猿谷氏曰く、結婚は「直観力によるもの」で、「この男は、と何かひらめくものがあって、まっしぐらにその道を突き進んだに違いない」(前掲書 83−84ページ)とか。 ビビビ、と来たんでしょうね。(笑) 頭のいいリンカーンのほうも、メアリやメアリの父親がもつ経済力なり人脈が利用できる、と、たとえ一瞬でも計算しなかったとは誰に言い切れるでしょうか。(笑)リンカーンの極貧の出自と頭の良さとのアンバランスに魅力を感じたのかも知れない、好奇心旺盛なメアリさん、直感どおりに、アメリカのファーストレディにまでなったけれど、そのあとが。。

 猿谷氏は、大統領夫人として人生の頂点を極めながら、メアリほど不幸な晩年を過ごした例は他にない、と言い切るけれど(90ページ)、う〜〜ん、それはどうかなあ。。

 イリノイとの州境近く、ウイスコンシン州ラシーンの町。そこに世界でたった一つと言われる、メアリと夫リンカーンが並ぶ石像があります。建てたのは、メアリあってのリンカーンだ、と、夫を大統領にしたメアリの貢献を称えた地元の女性。座ったリンカーンの右手に重ねられた、横に立つメアリの左手からは「私に任せなさい」という女の気概が感じられなくもない?(笑)悪妻だと歴史を記す男たちに言われようと、どこかに認めてくれる人はいるのです。

 
そして二人はもちろん、スプリングフィールドでいっしょに眠っています。よかった、よかった。

 乗ったのが夫だろうが妻だろうが、玉の輿は大変だなあ、と平凡な女は改めて思いました。でも、起伏の激しい人生は、自分のビビビを信じたメアリさんが自ら選んだもの。

 「ベルビュー・プレース」にいるのは長男の策略だ、一日でも早く退院してやると画策したメアリさん、一度だって自分の人生を後悔することはなかったでしょう。それはそれで幸せな人生だったのではーメアリの部屋があったとされる「ベルビュー・プレース」の二階の窓を見上げながら思いました。


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