SHOKOのシカゴ郊外の町から


著者略歴 長野尚子

イリノイ州在住フリーライター。
2001年、大手出版社の制作ディレクターを退職後、単身アメリカへ留学。
その後帰国し子育て関連誌の編集者を経て、結婚を機に 2006年3月より再びカリフォルニア州バークレー市へ。
主に教育・子育て、国際文化交流をテーマに人脈を広げながら執筆活動中。
2007年10月より、研究者である夫の仕事の関係でシカゴ郊外に移る。
趣味・特技はJazz(ピアノ&ヴォーカル)、剣道(四段)。好きなことは食べることと飲むこと。
バークレーでの3年間の留学生活を綴った「たのもう、アメリカ。」(近代文芸社)発売中。
www.ShokoChicago.com


バックナンバー
                “宇宙の起源”解明の鍵を握る場所。フェルミ国立研究所

 
 「宇宙はどのようにして生まれたのか?」―人類が永遠に抱き続けるこの謎に一番近い場所が、ここイリノイにあります。シカゴ市内から西に約30キロ、雄大な自然保護区に囲まれた知る人ぞ知る世界最大規模の物理学研究所。その名も「フェルミ国立加速器研究所」(通称:フェルミ研究所、Fermilab、FNAL)。


 Batavia、Warrenvilleという二つの町にまたがるこの研究所の敷地面積は、東京の千代田区と中央区がすっぽりと収まってしまうほど(全体図はココ)。敷地のほとんどは、湿地帯、森林帯、草原帯からなる自然保護区で、その中に数々の研究施設や、プール、託児所、Bar、レクリエーションセンターなどが備わった研究者たちの居住区域(village)があります。

 フェルミ研究所のメイン実験施設は、周囲6.3kmにも及ぶ「テバトロン(Tevatron)」と呼ばれる巨大リング。これは、素粒子を光速に近いスピードで正面衝突させ、とてつもない高エネルギーで素粒子反応を起こすことができる世界最大級の「衝突型粒子加速器(アクセルレーター)」です。
 いわば“小さなビッグバン”を再現し、宇宙の創生や自然の摂理を解明しているきわめて重要な実験施設なのです。

 というと、とてつもなく実生活からかけ離れた世界のように聞こえますが、実は「素粒子物理」は私たちの生活には欠かせないさまざまな技術に生かされています。その代表が「磁気テクノロジー」。コンピュータやi-Podなどの電子機器、生体内部の情報を画像化するMRIもこの技術が基になっています。また、素粒子技術は癌治療にも活用されており、研究所内の「中性子セラピー研究所」(1976年設立)では、これまで3000人の癌患者への治療を行ってきました。

 同研究所の創立は1967年。ロバート・ウィルソンによって設立された「国立加速器研究所」が前身となっています。1971年には、イタリア出身の偉大なノーベル物理学者で後にシカゴ大学で原子力エネルギーの研究に生涯を捧げたエンリコ・フェルミ博士(1901~1954)の栄誉を称え、名称を「フェルミ研究所」と改めました。以来、「素粒子物理」と「天体物理」両分野において常に世界の最前線に立ち、「ボトム・クォーク」の発見(1977)、「トップ・クォーク」の発見(1995)「タウ・ニュートリノ」の発見(2000)など、数々の歴史的研究や発見をリードしてきたのです。
 
 フェルミ博士の残した有名な言葉に次のようなものがあります。
「科学的思考や発見は、人々が何ものにも妨げられることなくコミュニケーションの限りをつくせる場所でこそ花開くことができる」―その言葉を裏付けるように、研究所内は実にインターナショナルで自由闊達な雰囲気にあふれています。

サイエンスに国境なし
現在、900人の物理学者、エンジニア、コンピュータの専門家を含む1900人の従業員に加えて、3000人(世界31カ国・153研究所から1100人、全米37州・106研究所から1800人)の科学者、学生たちが、国を越え共同研究に取り組んでいます。

 紛争中の国から来た研究者たちも、ここでは同じゴールに向かい肩を並べて研究に励む同志なのです。
 一方、フェルミ研究所はその豊かな自然環境でも知られています。郊外への開拓が進みつつある昨今、イリノイの自然草原帯はほぼその原型を失いつつあるといわれていましたが、研究所では1974年以来、専門家や地域ボランティアなどによって自然サイクルの再構築や復興作業が進められ、今では1100エーカー(東京ドーム99個分)の草原帯は開拓前に限りなく近い形にまで復元されています。この自然の恵みの中、コヨーテ、アカギツネ、ビーバー、鹿、ウサギ、イタチ、ミンクといった哺乳動物のほか、270種の鳥類、50種の蝶類、10種のカエルなどが観察されており、専門家のリサーチのみならず州内の各学校の野外学習などにもたびたび利用されています。(1989年、フェルミ研究所は「国立環境リサーチパーク」に指定。全米では6カ所)
 また、フェルミ研究所の隠れた“名物”といわれているのが、アメリカで絶滅寸前まで追い込まれたバイソン(バファロー)ファーム。地元住民に親しんでもらえるアトラクションをと考えた初代所長のウィルソンの発案で、1969年にイリノイ州から最初のバイソンが贈られたのが始まりです。今ではその子孫である70頭を越えるバイソンたちが、悠々とここでの生活を楽しんでいます。研究者たちの間では、「研究に没頭しすぎた学者たちがバイソンになった」という言い伝え(?)もあるとか。
 このような知られざる一面をもっと多くの人たちに知ってもらおうと、フェルミ研究所では地域の人たちの訪問を歓迎しています。敷地内プレイリーでのサイクリングやウォーキングトレイルは、時間内であればいつでも利用可能。

また、季節によってハイキング、フィッシング、クロスカントリー・スキー、ローラーブレード、アイススケート、カヌーなども楽しめます。
 さらに、月に一度のコンサート・シリーズ(ワールドミュージック、フォーク、Jazz、ブルース、クラシックなど)、アート展示会、映画上映、レクチャーやフォーク・ダンス教室などといった一般向けのプログラムをはじめ、小学生〜高校生向けの教育プログラムも充実。毎年、約1万5000人の地元の生徒たちがここを訪れ自然や科学に触れており、一方で研究者たちも毎年シカゴ近郊の学校を訪問して交流を深めています。

 最後に、同研究所が一般に開いている教育プログラムの代表的な一例をご紹介しましょう。これらは子どもたちが身近に科学に触れる絶好のチャンス。これからの季節、イリノイの隠れた名所「フェルミ研究所」に是非ご家族で訪れてみては。

◆キンダー~12th&ファミリー向けプログラム
「サイエンス・アドベンチャーズ」(夏季開催):さまざまな科学についてやさしく学べる人気のプログラム。
(詳細・問い合わせ:http://ed.fnal.gov/programs/adventures/

「Fermilab サマー・デイ・キャンプ 2009」(対象:7〜12歳)
6/1から8/21まで。1週間毎、全12セッション。水泳レッスン、工作、ゲーム、スポーツ、遠足、ネイチャー。ウォークなど。
(詳細・問い合わせ:call(630)854-3762 / コーディネーターPatti Hedrick)

◆高校生〜向けプログラム
「アスク・ア・サイエンティスト」:科学の疑問に専門家たちが何でもわかりやすく答えてくれる。
(詳細・問い合わせ:http://ed.fnal.gov/programs/ask/

「サタデー・モーニング・フィジックス」:土曜の午前中に開かれる、研究者によるガイドツアー。普段は立入ることのできない実験施設に入れるチャンス。
(詳細・問い合わせ:http://smp.fnal.gov//)


※上にあげたものはあくまで一例です。詳しくは同研究所HPもしくは下記URLから目的や年齢に合ったプログラムを検索してみてください。
プログラムサーチ:http://eddata.fnal.gov/lasso/program_search/search_new.shtml

◆一般向けプログラム
「レクチャー・シリーズ」専門家によるさまざまな分野のレクチャー。
通常金曜日の午後8時より。$5 @Ramsey Auditorium
(詳細・問い合わせ:http://www.fnal.gov/culture/NewArts/Lectures/07-08/lecture.shtml):630-840-ARTS (630-840-2787).

【今後開催されるレクチャー・シリーズ予定】
5/21 (Thursday)
The Power of Antimatter- Part of Angels & Demons Lecture Nights: The Science
Revealed

Dr. Marcela Carena (Fermilab and University of Chicago)
5/29 (Friday)
Nanotechnology: The Crafting of Self-Assembling Materials for Medicine and Energy
Dr. Samuel Stupp (Stupp Institute, Northwestern University)


【コンサート開催予定(2009年)】
(詳細・問い合わせ:http://www.fnal.gov/culture/NewArts/Arts/07-08/arts_series.shtml

5/9   Best of Dance Chicago $22 ($11 ages 18 and under)
6/13  Singer/Songwriter Susan Werner $18 ($9 ages 18 and under)
7/11 Ashley Lewis and Ashton Gap $16 ($8 ages 18 and under)
8/1  Ma Xiaohui Magic Erhu Recital $18 ($9 ages 18 and under)
9/24 Hot Buttered Rum $25 ($13 ages 18 and under)
11/7 Fred Garbo Inflatable Theater Company $26 ($13 ages 18 and under)
12/5 The Night Before Christmas Carol $18 ($9 ages 18 and under)

● フェルミ研究所への行き方
ハイウェイI-88 Farnsworth出口を出て、Kirk Roadを北に進み、Pine Streetを右折するとメインゲートが見えます。メインゲートでID(免許証)を提示。(車の場合)
*セキュリティチェックの詳細についてはHPで確認ください。

●フェルミ国立研究所HP:http://www.fnal.gov/
※ 写真は一部研究所HPより引用


      
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