樺沢さんの精神医学的アメリカ考察



著者略歴 樺沢紫苑
(本名 佐々木信幸)


1965年、札幌生まれ。札幌医科大学卒。
精神科医。

2004年4月より、イリノイ大学シカゴ校
精神科勤務。

著書
「北海道スープカレー読本」(亜璃西社)


 朝日新聞、週刊ポストなどに記事執筆。サブカルチャー、アメリカ文化に詳しい精神科医として、テレビ、ラジオ出演など、精力的に活動中。

メールマガジン「シカゴ発 映画の精神医学


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                シカゴでベトナム小旅行

 シカゴもようやくポカポカとした陽気となり散策するのが楽しい時期になってきた。そんなわけで、レッドラインでふらりと「アーガイル」まで出かけてみた。アーガイル周辺が結構おもしろい、と聞いていたからだ。レッドラインでダウンタウンから北へ30分ほど。「アーガイル」駅で下車すると、そこには「シカゴ」いや「アメリカ」とは言えない一角が広がっていた。



写真1 アーガイルの町並み

 中国語の看板をかかげた店が、レッドラインの線路の両側、東西の通りワンブロックの間に密集している。一見、中国まで飛ばされてしまったかのような錯覚におちいる。アーガイル周辺は「ニュー・チャイナタウン」と呼ばれている。しかし、散策を開始してみると、ここがアメリカの中に浮島的に存在する「中国」ではないということがわかる。中国というよりも、「ベトナム」である。看板は中国語とベトナム語が併記されているし、ベトナムの代表的な麺料理「フォー」の店が何軒も並び、スーパーでは中華食材よりも、ベトナム料理の食材が幅をきかしている。

 では、ここに住む彼らがベトナム人なのかというとそうではない。なぜなら、看板は基本的には中国語で書かれているからだ。実は、ベトナム系の華僑がシカゴに渡って住みついた一角がこの「ニュー・チャイナタウン」の正体なのだ。純粋な中国系でもなく、ベトナム系でもない。ベトナムの華僑という、ミックス・カルチャーなところが、この「アーガイル」のおもしろいところであり、他のチャイナタウンとは一線を画す不思議な空間として成立している。

 まずは、お腹もすいていたのでベトナム麺フォーの店「フォー777」へ入る。この一角にフォーの店は何軒もあるが、「フォー777」は他店と比べてややお値段高めではあるが、衛生面などはしっかりとしているようなので、日本人が行くにはこのレベルでないとつらいかもしれない。



写真2 フォーの店

 もちろんお目当てはフォーであるが、フォーだけでメニューには何十品も載っている。どれを頼んでいいか一瞬途方にくれるが、良く読んでみるとビーフのスープ、シーフードのスープとスープが何系統かあって、あとは入っている具によって、それぞれ10〜15種類くらいずつ細分化しているようだ。あと麺にも太いのと細いのと何種類かあって、それによってまたメニューが細分化されている。とりあえず、最もスタンダードなものを注文しようということで、ビーフのスープとシーフードのスープのフォーを一種類ずつ注文してみた。

注文するとすぐに店員が、モヤシとパクチーを山盛りにした皿を持ってくる。これはどうやって食べるのか? サラダだろうか? ライムを搾って、おそるおそる、モヤシとパクチーをつまんでみる。いずれも生だ。そのままでは食べられたものではない。どうやら、お好みでフォーに入れて食べるということらしい。


写真3 ビーフのフォー

さて、しばらくするとフォーが運ばれてきた。まずは、ビーフのフォーをいただく。スープを一口飲む。うーん、旨い。非常にアッサリとしたスープ。それでいて、旨みは十分にある。そして、フォーがスープによく絡むこと。日本のアッサリとした塩ラーメンを彷彿とする。ただ、フォーはラーメンの麺よりも素麺に似た食感である。そのツルツル感が口と喉を通過するのがたまらない。薄切り牛肉が入っているが、これがなかなかフォーとの相性が良い。麺とスープ自体がアッサリとしているから、肉と一緒に麺をほおばると、コッテリ感が加わり丁度良くなる。うまいうまいと食べているうちに、麺だけが早々になくなってスープだけが残ってしまった。これは麺が非常においしく食べやすいという証拠でもある。

少し口直しに、ラー油や唐辛子ペーストを加えて、スープの味を変えてみる。テーブルサイドに置かれた調味料は、どれも激辛であった。普通の人は、そのまま食べた方がよさそうだ。家内のシーフードのスープを少しもらう。ピーフのスープとは全く別な味だったので驚く。ビーフはアッサリしているので、シーフードの方がむしろコクがある。スープのおいしさからいえば、シーフードの方がいいかも・・・。

さて、あっという間に一皿を平らげてしまった。あまりの旨さに「もう一杯おかわり」と言いたいところだが、意外と一皿のボリュームはあるから、そこまでは無理だ。アメリカで生活していると、時に無性にラーメンを食べたくなる瞬間があるが、そうした欲求をこのフォーは間違いなく緩和してくれるだろう。これで、1杯5.95ドルは安い。ただこの店は、他のフォーの店よりも多少高級なのだという。チープな店では、4ドルほどで食べられるらしい。アーガイルもチャイナタウンと同様に、物価が安いというわけで、それもまた魅力の一つである。

フォーを食べた後、周辺を少し散策する。散策するといっても端から端まで2ブロックしかないので、歩くだけなら10分もかからない。とりあえず、スーパーマーケットに入ってみた。これまた異国情緒漂う楽しい空間である。チャイナタウンのスーパーマーケットとはかなり売っているものが違う。やはり、ベトナム料理の食材や食品が中心である。フォーの麺だけで、売り場スペースのかなりを占拠しているのはおもしろい。インスタントのフォーも売れられていた。1個30セントだったので、大量に購入する。デザートがわりにココナッツのアイスキャンディー(98セント)も買ってみる。細々としたものを袋に一杯買い込んだが、会計してみるとたったの6ドルだったので驚く。ココナッツのキャンディーは、ココナッツの味が濃厚でとてもおいしかった。



写真4 ベトナム食材のスーパーマーケット「VIET HOA」

さて、その次は向かいにあったベーカリーに入ってみる。中華パンの店だ。ケーキなども売っている。BBQパン、カリーパン、ゴマ団子など数種類を買い込む。さすがに今は食べられないので夕食用である。しかしながら、味の方はイマイチだった。チャイナタウンのパン屋の方がおいしい。

怪しげな雑貨屋が何軒かある。散策するのには丁度良い。あっという間に、2時間ほどが過ぎてしまった。アーガイルは、「異国情緒漂う不思議な空間」である。ダウンタウンから電車で30分。近くはないけども、30分でベトナムに行けると思えば遠くはない。是非一度足を運んでいただきたい。全く別なシカゴの一面を見ることができる。

なおこの地区は、夜になると浮浪者なども多く雰囲気が悪くなる。昼間は問題ないので、初めて行く人は夜を避けるべきだろう。

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