藤河さんのシカゴはクール



著者略歴 藤河信善

現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D(日本、アメリカ、ドイツの大学で研究歴)、映像作家、旅行家。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、ラオスの山中を山岳民族と渡り歩いたりと、大志無く、ただ赴くままに生きているジプシー人生。


ユキノヒノシマウマ

TukTuk Race 〜東南アジア気まま旅 (のらり連載中)

メールマガジン「海外生活基本レシピ」


バックナンバー



*釣りをしてみたいんだけど初めてで不安、釣りが好きなんだけ何処へ行けば大きな魚が釣れるのかわからない、トローリングに同乗して欲しい、アメリカ人ガイドでは英語が不安という方は、「wanderphoto[at]live.com」まで。



         中西部釣り紀行その16 (フロリダ エバーグレーズ編)


世界遺産の湿原地帯にスヌークを追う


  「エバーグレーズ」、自然好きな人やフロリダ好きの人にとっては楽園だが、まだまだ一般の日本人にとってはディズニーワールドやキーウェストに比べると知名度の低い場所である。アメリカの国立公園に認定され、世界遺産にも指定されているが、マイアミなどの大都市の急激な人口増加や、フロリダの大農場に使用される大量の水を賄うために、この世界的にも貴重な大湿原は存続の危機に陥っている。 自然の宝庫ともいえるエバーグレーズだが、バードウォッチャーやトレッキングファンだけではなく、釣り人にとってもやはり天国といえる場所である。
 アメリカで釣り天国として知られる場所の中には、サーモンやハリバットで有名なアラスカ、綺麗な森の中に浮かぶ静かな湖畔での釣りが印象的なウィスコンシン、そして淡水・海水両方の魚を同エリアで釣れる広大な汽水域が広がるフロリダがある。もちろんこの3州は、フィッシングライセンスの売り上げでも全米トップクラスである。

 そんな釣り人天国のエバーグレーズでも特に人気のあるターゲットフィッシュが、今回メインで狙うことになったスヌークと呼ばれる日本のスズキの仲間である。このスヌークは、フッキング後のファイトが豪快で、餌、ルアー、フライといろんな釣法で釣れることから釣り人に人気があり、また釣った後も食べておいしいことから乱獲が進み、近年急激にその生息数を減らしていることからフロリダでは他の魚種に比べても厳しいレギュレーションが設定されている。

カヤックを漕いでマングローブの森へ

 ここエバーグレーズは、西海岸によくあるタイプの豪快な山脈や奇岩の巨大なモニュメントが砂漠の中に突然出現したり、どこまでも透き通る鏡のような湖面が次々と現れるというようなパッと見で圧倒されるようなナショナルパークではなく、見たところなんでもないただの湿原がただどこまでも広がっているというような、ある意味自然と静かに対話したい人でなければ本当の良さに気がつかないようなところである。しいて言うならば西海岸のナショナルパーク群が「動」とすれば、こちらは「静」といったところだろうか。ただ「静」とはいっても、もちろんこの湿原の奥深くにはフロリダピューマやブラックベアー、マナティー、フラミンゴなど希少な動物たちが潜み、水の中では2mを越えるような古代魚ターポンや巨大なクロコダイルが悠然と泳ぎ回っているのだ。

 そんなエバーグレーズの一番のアクティビティは、この湿原に延々と続くマングローブ群の中へカヤックやカヌーを漕いで入り込み、自然にどっぷりと浸かることである。ただ注意しなければならないのは、ここには標高が高い山などの目標物がなく、景色もどこへ向かっても同じような眺めをしたマンブローブが水面へ枝を伸ばしているだけという具合なので、地図は必帯なのはもちろんのこと、最低でもコンパス、もしくはGPSを持って入らないと迷って出られなくなってしまうこと間違いなしという点である。実際に、ここでは毎年入り込んだまま行方不明になったり、ワニに食べられたりする人が相当数いるのだとか・・・。というわけで本当は誰か一緒に行ける人がいればよかったのだが、今回は一人旅ということもあって、地図とコンパスを片手にこのマングローブの森の中を彷徨い、スヌークを求めて竿を振り続けた。

 野鳥の声が響き、水面を割って時々大きな魚がジャンプをし、ワニもカヤックのすぐ脇に警戒心もなくひょっこりと顔を出すのだが、2日間ルアーのキャストを繰り返した苦労が報われることはなかった。もちろん魚は釣れなかったが、シーズンオフということもあって大自然の中をほぼ貸しきり状態で、他の人とすれ違うこともなく満喫できたのは素晴らしい体験だった。蚊の集団に悩まされたのを除いては・・・。

ヨットハーバーからのナイトフィッシング

 というわけでマングローブの森の中での釣りは失敗に終わったが、一匹もスヌークを釣らないまま帰るのではさすがに寂しすぎる。かといって、撮影仕事の合間を縫ってやって来ていることもあって、ここでさらに数日を過ごすほどは今回の旅に時間の余裕はない。となればやれることはただひとつ、睡眠時間を削ってヨットハーバーからの夜釣りに挑戦するということだ。

 ただ夜釣りとはいっても、ハリケーン通過直後の濁った水と波の荒さが、湾の奥に位置するマングローブの森以上に酷く、ルアー釣り主体の自分にとっては決して恵まれた状態とは言い難い。自然相手の勝負なだけに、釣りの場合こういった条件だからといってどうしようもないのだが、それにしても状況は明らかに厳しいものがある。ほんの少しの希望があるとすれば、夜中過ぎに満潮があるので、それに前後して潮が動く短い時間帯に勝負をかけるしかない。

 愛用のアブ5000Cにナイロンの15ポンドを巻き、その先に結びつけた3/4オンスのクロコダイル・スプーンのキャストを繰り返す。ミノー、バイブレーション、スイムベイトと散々試したが、一切アタリすらない。このヨットハーバーでのキャスティングはすでに4時間以上が経過したが、「これだけやってもアタリすらないということは、さすがに今日は無理か・・・」という気持ちが眠気とともに押し寄せてくる。
 ヨットハーバーの足元まで強く嵩を増してきた潮の動きもほぼ止まりかけ、眠気と蚊の襲撃にさすがに竿を仕舞うかと決めかけた頃、「ガツーン」と竿に強い衝撃が伝わる。着た!水が濁っているために何がかかったのかはわからないが、足元近くでとにかく何かの魚がヒットした。右に左にと激しく抵抗する。時間にすれば短時間のファイトだったが、暴れる魚に水しぶきをかけられながら約30秒後に手にしたのは念願のスヌークだった。まさかエバーグレーズまでやってきて一匹のスヌークを捕るためにこんなに苦労させられるとは思わなかったが、とにかく一匹を手にしてやっと眠りにつくことができそうだ。
 釣りという奴は、本当にギャンブルに近いものがある。「もう一投、いやもう一投だけ・・・」、そうやって「次の一投こそは大物が来るんじゃないか」と願いながらキャストを繰り返す。もちろんそうやってがんばっても何も釣れないことだって多いのだが、諦めかけた頃にこうやって貴重な一匹が仕留められることだってあるから止められない。もちろん約70cmとこいつも決して大物じゃあなかったが、苦労しても苦労しても釣れない時の一匹は本当にうれしいものだ。

ガイドの釣り船で溺れかける

 本当はもうそろそろ次の目的地であるマイアミへ向かわなければならないのだが、エバーグレーズでの釣果があまりに寂しいものだったために諦めがつかず、午前の出発を午後に伸ばして、地元のフィッシングガイドを雇って船で半日海へ出ることにした。

 ガイドお勧めの入り江へ向かったり沖へ向かったりするのだが、波風は落ち着いたもののやはりハリケーンの影響かさっぱり魚は食わない。船まで出してそれなりに出費しているだけに「一匹も釣れないのでは悲しすぎるぞ」とブルーな気持ちが込み上げてくるが、まあこればっかりはどうしようもない。やはり釣れない時は、例えエバーグレーズだろうと、船を出そうと魚は釣れないものなのだ。
 そうこうして早朝の一番良い時間帯が終わろうかという頃になって、「ギュギューイーン!」とドラグを滑らせ糸を引き出しまくってくれたのが、魚臭くってこの辺りじゃあ誰も食わないというジャック・クレバルの約15ポンド。見た目は日本の高級魚シマアジに似ているのだが、どうやら不味いらしい。実際に私も釣ったことはこれまでに何度かあるのだが、今までに食ったことは一度もない。次に釣ったらちょっと食べてみようと思っている。まあとにかく味は不味いらしいが、釣りのターゲットとしては、怪力持ちのこの魚は本当に楽しい奴だ。
 ところがやっと待望の一匹を手にしたところで、このフィッシングツアーに深刻な問題が発生する。魚をゲットしたポイントは、ガイドも良く釣りをする場所らしいのだが、そこから少し移動しようとした時にそれは起こった。「ドッカーン」と徐々にスピードを上げつつあった船に、底から突き上げられるような大きな衝撃が走り、その衝撃で船はほぼ垂直にまで立ち上がり危うくひっくり返りそうな状態になったのだ。余りに一瞬の出来事で何が起こったのかガイドも自分も理解に苦しんだが、とりあえず船も転覆しなかったし、2人とも船から放り出されることもなかったのだけが幸いだ。

 しかし、問題はそれで終わらなかった。船がぶつかった衝撃でエンジンが壊れてしまい、どうがんばってもウントモスントモ言わなくなってしまったのだ。ハリケーン後の影響で釣果は見込めないと考えているのか、海上には他に船も見当たらない。おまけに少しずつ波が高くなり、風も吹いてきた。悪いときには悪いことが重なるものなのだ。

 しばらくがんばってはみたが自力ではどうしようもないので、無線で港に連絡を取り、そこから駆けつけた救助船に助けられたのだが、サメもうじゃうじゃいるこの海域で遭難しかけるというのは、さすがに心地が良いものではなかった。結局、救助船もかなり苦労しながら牽引してくれてわかったのは、ハリケーンの影響で海底の砂が大きく動き、船が暗礁してしまったエリア一帯にこれまでなかった隆起が出現していたということらしかった。

 釣果は挙がらないわりにいろいろと苦労したが、エバーグレーズにはまた近いうちにリベンジに戻らなければと考えている。


*釣り場は地元の人たちが大事に育ててきたものであり、また情報を提供していただいた方々にもご迷惑がかかりますので、釣りキチ三平スタイルで詳細な位置は示しません。
ご連絡はこちらまで「wanderphoto[at]live.com」



                                   
バックナンバー


ホーム | 初めての方へ | お問い合わせ | 投稿者&ライター募集中! | 規約と免責事項 | 会社概要

Copyright (c) 2005 US Shimbun Corporation. All Rights Reserved.