藤河さんのシカゴはクール



著者略歴 藤河信善

現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D(日本、アメリカ、ドイツの大学で研究歴)、映像作家、旅行家。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、ラオスの山中を山岳民族と渡り歩いたりと、大志無く、ただ赴くままに生きているジプシー人生。


ユキノヒノシマウマ

TukTuk Race 〜東南アジア気まま旅 (のらり連載中)

メールマガジン「海外生活基本レシピ」


バックナンバー



*釣りをしてみたいんだけど初めてで不安、釣りが好きなんだけ何処へ行けば大きな魚が釣れるのかわからない、トローリングに同乗して欲しい、アメリカ人ガイドでは英語が不安という方は、「wanderphoto[at]live.com」まで。



         中西部釣り紀行その12 (ミシシッピ・デルタ編)


バイユーにレッドブルを追え

   もしこの世に釣り人の天国があるとすれば、それはミシシッピデルタだろう。かくいう私も、もし一番好きなフィッシングエリアをひとつだけ選べと言われれば、難しい質問ではあるがおそらくこのミシシッピデルタを挙げる。

 北米を延々と流れる世界三大河川ミシシッピ河の河口に広がる巨大なデルタは、複雑に入り江が入り組み、スパニッシュモスが巨木から垂れ下がる沼地が限りなく点在するバイユー(bayou)と呼ばれる地域だ。

 その沼地や入り江には、蝦や蟹などのプレデターフィッシュ達の豊富なベイトが溢れかえり、足元に魚の切り身やチキンを垂らすと、次々に蟹が集まってくるほどだ。この豊かな水域で、それらをたらふく食べて育った魚たちは健康的で、また魚影も想像を絶するほどに濃い。 

 淡水と海水が交じり合うこのエリアは、ブラックバスなどの淡水魚はもちろんのこと、汽水域に暮らすレッドフィッシュ、シートラウト、スヌーク、ブラックドラム、そして海水魚のキングマケレル、イエローフィンツナなど、どれだけ釣っても釣り飽きることがないほどターゲットにバラエティーがある。(http://www.wlf.state.la.us/fishing/fishid/)

 この釣り人天国の中でも私が一番好きな釣りが、ブラックバス釣りなどで使用するライトタックルを用いたレッドフィッシュ・フィッシングだ。この魚は大きいものでは50〜70ポンドというサイズに成長するが、メキシコ湾の沖合いではなく、バイヨーの中に暮らす若魚建ちはサイズも10ポンドクラスまでが多く、ライトタックルとバス用のルアーでも十分に釣れるターゲットとなる。ただし、同じ5ポンドでもそこは海水魚、バスと比べると体感で5倍くらいは引きが違う。おそらくバス用タックルで初めてこの魚を釣った人は、その強烈な引き味に驚くこと間違いなしだ。

 タックルはミディアムヘビーからヘビーの6〜7フィートバスロッドに12〜15ポンドラインを使用し、スピナーベイト、ワーム、クランクベイトなど、バス用に使用するルアーを用いる。ただし、フックはバス用のものでは伸ばされる危険もあるので、少し強度のあるものに交換しておくのも手だろう。

 ポイントは葦などが生えている浅瀬や桟橋の下、そして1匹釣れればその周りには群れがいる可能性が高いので続けてキャストをしてみるということだ。また深さが30cmくらいしかないような浅瀬にも10ポンドクラスが潜んでいることがあるので要注意だ。

バス用タックルで40ポンドのブルレッドを

 複雑に入り組んだ入り江や沼地で十分にレッドフィッシュ釣りを楽しんだら、次は沖合いへ1マイルも突き出たフィッシングピアなどで30ポンド以上に育ったレッドフィッシュ、別名ブルレッドを狙う番である。まさに「ブル:雄牛」の名に恥じないこのブルレッドの引きといったら、淡水魚ではまず味わえない恐ろしいトルクのファイトである。

 その強烈なファイトを物語るように、人気フィッシングピアではファイトによって折られてしまったぶっといロッドの残骸が転がっているのを目にすることができるだろう。

 そのブルレッドを、15ポンドのナイロンラインを巻いたアブ2500Cとミディアムヘビーのバスロッドで釣り上げるという馬鹿げた試みを今回は実行してみるために、あえて5000Cから2500Cへとリールを装着し直す。釣りに興味のない人には、これが馬鹿げた試みであるというのが実感できないだろうが、とにかくブルレッドの強烈な走りに十分な糸巻き量はなく、リールとロッドはちょっとでも操り方を間違えば一瞬で残骸に化すという状態での釣りである。釣りというのは例え相手が数百パウンドあろうとも、それに十分対応できる最新のタックルを用意すればなんなく釣り上げれるものだが、逆に1ポンドの魚でも繊細なタックルで釣れば十分にスリルを楽しめるものなのだ。

 釣り人の数も多いフィッシングピアとはいえ、さすがはルイジアナ、イルカも頻繁に顔を覗かせる野性味溢れる釣り場である。潮風と波が砕ける音に混じって、イルカが時々「プシュ〜」と潮を噴き上げる息吹をバックミュージックに竿を振るのは爽快そのもの。

 時には大きな鮫も釣れるというこの場所で、キャストを繰り返すこと数時間、夜の11時を過ぎた頃から潮の動きが変わってきた。海釣りの経験者ならわかるだろうが、淡水と違ってこの潮の流れの変わり目というのは一斉に魚が活性を上げる最も顕著な瞬間だ。

 魚影の濃いフィッシングピアだけあって、この数時間の間にもブルレッドを狙ったキャストにはレッドフィッシュやシートラウトが幾らかかかっていたのだが、ブルレッドはまだ上がっていない。潮に動きが出て、それほど時間を経ない内にまるで河の急流のような潮流が走り出した。「フィッシュオン!」、オレンジ色の街灯で照らされた真夜中のフィッシングピアに大きな声が響き渡る。しばらくの格闘の後に、約30ポンドのブルレッドを近くで釣りをしていた男性が釣り上げる。だが、自分の竿にはまだシートラウトが続けてかかるばかりだ。

 「フィッシュオン!」、また近くの男性だ。今度は20ポンドクラス。続けて「フィッシュオン!」さらに別な男性にもブルレッドがかかる。こちらも負けじと30ポンド近くのサイズだ。そうこうしているうちにも時間は過ぎ、潮の流れも少しずつ流れの勢いをなくしつつある。気持ちは焦るが、キャストを繰り返してもかかるのはなぜかシートラウトばかり。彼らのようにローカルではなく、遠く離れたシカゴから遠征に来ている自分に残されたチャンスは少ない。「このままではライトタックルでのブルレッドとの格闘はまた次の機会までおあずけか・・・」、そんな気持ちが頭の中を支配し始めた頃、ガツンと強烈な辺りが手元に伝わる。

 急いでフッキングし、それに続く猛牛の突進に細いロッドを折られないようにドラグ調整を一気に緩める。ただし、リールは2500Cだ。この調子で走られると、1分も持たずにラインはすべて出尽くすだろう。みるみる引き出されていくラインをどきどきしながら眺めながら、残された手はひとつ、一か八か一気にラインを開放し、サミング調整だけで乗り切る手段だ。魚というのは不思議な習性を持っていて、激しくリーリングすればするほど激しく抵抗し、一気にラインのテンションを緩めると、行き先を失ったマウスのようにふらふらとさまよい、時に逆送を始めるのだ。その瞬間がラインのキャパシティーが少ないリールが一気にライン量を増やすチャンスである。ただし、この方法はラインテンションが緩んだ瞬間にフックが外れるという危険も高いだけに、いわばこの馬鹿げたライトタックルゆえの一か八かのギャンブルというわけだ。

 もうこのライン開放しか手段はないと決断を迫られていた瞬間、一気にラインが軽くなった。「あっ、逃げられたかな・・・」。77年製のクラシックリールで巻き取るラインのスピードは、海の大物を狙うにはあまりにスローだ。「やはりこんなリールで狙うのが無理だったか・・・」、そんなこと考えながらリーリングをしていると再び強烈な走りが。この間ほんの数秒だろうが、実際にはもっとずいぶんと長く感じられる。とにかくこういう油断した後に一気に走られるのが、一番ロッドにもラインにも危ない瞬間だ。

 再び強烈な走りに耐えながら、幾度かラインの引き出し、巻き取りを繰り返し、やっとフィッシングピアの桟橋の袂まで魚が寄ってきた。ファイトの中でも、この取り込みの瞬間が一番魚をバラシ易い瞬間だ。特に海の場合には、桟橋に牡蠣などが張り付いており、それにラインが触れると一瞬で切れてしまうだけに慎重さが必要になる。

 近くの釣り人が網を持って駆けつけてくれ、一気に魚を取り込んでくれる。魚がフィッシングピアに上がった瞬間、その男性が大声を上げる「お〜い、凄いぞ!」。その声に反応して、夜中過ぎまで釣りをしている釣りキチ達が数人集まってくる。皆が皆、笑顔を浮かべながら「こんな竿でブルレッドを釣るなんて、お前は馬鹿だよ(笑)」などと冗談を言ってくる。

 魚の大きさは42ポンドとブルレッドとしてはそれほど巨大というわけではなかったが、2500C としてはこのサイズのブルレッドを釣り上げたのはおそらく世界記録ではないだろうか。ライトタックルで大物に挑む時特有の慎重なやり取りで心地よい疲れが残る腕に、このレッドブルの重みがずっしりと身にしみる。魚を支える手元も、釣り上げた緊張と疲れで心なしか微妙にプルプルと震えていた。

 釣りはこういうタックルの選択による戦略性やスリル、そして何よりも現地で出会ったお互いに見ず知らずのフィッシャーマン同士の笑顔があるからやめられない。


*釣り場は地元の人たちが大事に育ててきたものであり、また情報を提供していただいた方々にもご迷惑がかかりますので、釣りキチ三平スタイルで詳細な位置は示しません。
ご連絡はこちらまで「wanderphoto[at]live.com」



                                   
バックナンバー


ホーム | 初めての方へ | お問い合わせ | 投稿者&ライター募集中! | 規約と免責事項 | 会社概要

Copyright (c) 2005 US Shimbun Corporation. All Rights Reserved.