Kuni のウィンディ・シティへの手紙


著者略歴 馬場邦子

アメリカの通信社東京支局、及びシカゴ支局で金融をカバー。
サンノゼ・マー キュリー・ニュースの 東京支局長アシスタントを経て、フリーに。
主にジャパン・タイムズにアート・ レビューを執筆。
2002年2月より、シカゴ郊外アーリントンハイツに住む。

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 ブルースギタリスト、菊田俊介、日本で不況気分を吹き飛ばすライブ・パフォー マンス!
〜夏のシカゴ・ブルース・フェスティバル出演から、渋谷「クロコダイ ル」のライブ演奏まで〜


 「ブルースの首都」として世界的に知られるシカゴのブルースシーンで活躍する 日本人ブルースギタリスト、菊田俊介氏が、日本ツアーで、不況で暗い気分に 陥っている日本人に元気を与えている。2月15日の札幌でのライブを皮切り に、仙台、福島、宇都宮、東京、横浜、そして関西、九州エリアと日本全国 16ヵ所も回る精力的なツアーを敢行している。菊田氏は、2000年より「ブ ルースの女王」と呼ばれるココ・テイラーのバンド、「ブルース・マシーン」の 専属ギタリストとして、ココとともに世界中をツアーするほどの実力の持ち主。 2004年より、シカゴの夏の風物詩、シカゴ・ブルース・フェスティバルにも 出演し続けている。今まさに世界が注目するブルースギタリストの一人といえる。


渋谷クロコダイル
 2月21日の渋谷のクロコダイルでのライブは、2007年に発売された菊田氏の アルバム「Rising Shun」からのオリジナル曲を中心に演奏されたが、B.B.キン グやローリング・ストーンズ、ビートルズなどの代表曲も取り入れ、シカゴブ ルースの真髄とともに、菊田流にアレンジされたファンキーなサウンドを観客の 心に届けてくれた。とくに、菊田氏のオリジナル曲は、シカゴでのブルース・ フェスティバルやライブハウスでのブルージィーな演奏とは一味違った、東洋と 西洋の融合する一種独特の哀愁だたようクールでミステリアスな世界をかもし出 す。 真夜中、リビングで寝転びながら聴くフュージョンの世界にも通じ、ブルー ス通でなくても一瞬で入り込める心地いいサウンドを楽しみながら、知らず知ら ずのうちに、ブルースの醍醐味も堪能できるという、誠に贅沢で至福なひととき を味わえる。

 音楽評論家、越谷政義氏の紹介で、このライブハウスの象徴であるワニをバック に、白い透き通ったシャツにジーンズ、そしてブルース・ミュージシャンにはお なじみの黒いハットで現われた菊田氏。手には、愛用の水色のムーン・ギターズ が光る。ブルースの三大キングと呼ばれる中の二人、フレディ・キングのナン バー、「Stumble」、B.B.キングの70年代のヒット曲、「Why I Sing the Blues」でこの日のライブは幕を開ける。
左がバンドのボーカル、上原誠氏

 ブルースの真髄であるエレクトリッ ク・ギターが体の奥底に炸裂する強烈な瞬間。ブルース好きにはたまらないだろ う。2003年、菊田氏は、その実力ゆえ、PBS系テレビ番組「An evening with B.B. King」のバンドリーダーに抜擢され、彼がこの世界に入るきっかけとなっ た憧れのブルース界の巨人、B.B.キングと共演した。そのときのことを「自分 の音楽人生で一番の思い出になった。」と自分のブログに語っている。その年 は、マーティン・スコセッシ監督がプロデュースし、PBS系テレビで全米に放 映され話題になった「The Blues」というブルースの歴史を集大成したドキュメ ンタリー映画の一場面にも出演している。競争が激しいアメリカの音楽ビジネス 界で、1人の日本人ギタリストがここまで上り詰め、受け入れられるというの は、快挙としかいいようがない。


摩天楼をバックにメインステージが映える
 それを証明するかのように、去年の6月の第25回シカゴ・ブルース・フェス ティバルの菊田氏の存在感が光っていた。初日のミシガン湖をバックにしたギブ ソン・クロスロード・ステージという小さなステージでのノリのいいライブと、 2日目のぺトリロ・ミュージック・シェルというメイン・ステージでのトリをつ とめたココ・テイラーバンドでの注目のライブ。4日間で、7つのステージで 100のバンドが出演。

 世界中から100万人ものブルース好きの人々が集まる といわれるシカゴの夏の野外の祭典、ブルース・フェスティバルのメイン・ス テージの巨大スクリーンが、白い衣装をまとった一人の日本人ギタリストを映し 出す。夕闇の中で、そびえ立つ摩天楼をバックに、オープニングで、「Luv Sombody」を歌う菊田氏。メイン・ステージ4回目にして、初めて歌ったとい う。彼の全身から発する高度なギターテクニックに、3万人以上の観衆は酔いし れる。驚きながら、「あのすごいギタープレーをする東洋人は、中国人なの か?」などとささやき合うアメリカ人の声がする。

 80歳という高齢ながら、長 年「ブルースの女王」として君臨するココ・テイラーの心の底からしぼり出すよ うなハスキーボイスに、菊田氏の俊敏なエレクトリック・ギターが呼応する。菊 田氏の横で、うれしそうに魂の叫びを表現するココの表情に、菊田氏への絶大な 信頼が感じられる。「Shunは、トップギタリストの1人よ。それ以上に、息子の ようなものなの。」とココは語る。

ブルースフェスティバルのステージで

 「フェスティバルのステージに立つと、 "夏 がやって来た"ことを実感し、ココとこうした夏を今年も体験出来ることに、感 謝の気持ちでいっぱいになるのだ。」と菊田氏は以前語っている。

ブルースフェスティバルの初日、「ギブ ソン・クロスロード・ステージという 小さなステージでのノリのいいライブ」
ブルースフェスティバル2日目、「ココ・テイラーバンドでの注目のライブ」


ギターをかき鳴らしながら、客席を練り歩く
再び、渋谷でのライブ中継にもどろう。スタンダードなブルースナンバーで、 ウォーミングアップした後は、3曲目から、彼のオリジナル曲で固め、観客を完 全に菊田ワールドへのめり込ませる。「Hard Hard Mile」「Love on Track」こ の2曲は、音楽好きの友人が書いた詩に、彼が急死した後に菊田氏が曲をつけ た、トリビュート作品。

 そして、アコースティック・ギターを取り入れたバラー ド「Old Soul」 この曲は、12年前、シカゴに住んでいハーモニカ奏者、シュ ガー・ブルーと一緒にセッションをしたとき、「お前のプレーはOld soulだ! (魂のこもった熟練した演奏というニュアンス)」と褒めてくれたことからイ メージを得て、書き上げたという。普段は、ファンにも気さくにサインに応じた り、受け答えする菊田氏だが、一旦演奏が始まると、終始、目をつぶって、ギ ターに寄り添いながら、自分の世界をとことん追求する姿は、「真のアーティス ト」という表現がぴったりかもしれない。途中、ビートルズの「Yer Blues 」や 2006年にストーンズフリークで有名な越谷氏がプロデュースし た「Respect The Stones」というCDに菊田氏のバンドが参加した「Missing You」で盛り上 げる。20歳の頃に聞いて以来魅せられたB.B.キングの「Everyday I have the Blues」で前半を締めくくる。この巨匠の音を聞いて以来、ブルースの世界 にのめりこんだという。「この曲は、今聞いてもドキドキして、あの頃の自分に もどしてくれる」とライブで熱く語る。

 菊田氏は、音楽好きのお父さんの影響で、小さな頃からクラシックを聴いて育っ た。中学時代は、松山千春やチャゲ&飛鳥などのフォークを中心に演奏。その 後、高中正義、リー・リトナーなどのフュージョン系を経て、高校時代は、ロッ クにはまる。そして1990年、ボストンのバークリー音楽大学を卒業して1週間後、シカ ゴに出てきて、ストリート・ミュージシャンから実力ですぐにのしあがり、今の ようにライブハウスで演奏をはじめたという。ロックのルーツをたどると、ブ ルースにいきつく。ストーンズもクラプトンもそうだが、ブルースから影響を受 けているミュージシャンは多い。ブルースは、100年前にアメリカ南部ミシ シッピ川近郊で起こった音楽で、黒人たちが、奴隷として自分たちの虐げられた 生活や恋人との別れなどを題材にして、ワークソングや霊歌として、作り上げら れた。それは、デルタ・ブルースと呼ばれ、主にアコースティック・ギターの弾き語りで演奏された。そのア メリカ深南部のデルタ・ブルースにエレキ・ギターを持ち込み、バンド・スタイルに発展させたものがシ カゴ・ブルースであった。

 ライブの後半は、菊田氏の「Shun Kikuta Band」の核となるベーシスト片野篤 氏、ドラマー金指典男氏、菊田氏による意気の合ったトリオ演奏が圧巻。オリジ ナル曲、「Let's Jam 」に日本人にはお馴染みのペンチャーズの「Wipe Out」を はさむという究極のアレンジで、観客はますますのってくる。
Shun Kikuta Trio

 菊田氏が大好きだ というビル・ウィザーズのAORのヒット曲「Ain't No Sunshine」では、泣き のギターで、観客に日本人の演歌のような泥臭さまで感じさせるほどの表現をみ せる。そして、「Rising Shun 」の最初におさめられた菊田氏自身が作詞作曲、 ボーカルもこなす、「When You Feel Lonely」は、「孤独を感じたら、自分自身 を愛せばいいんだよ。そうしたら、誰かが愛してくれる。」というさりげない慰 めのメッセージをこめた曲。アメリカ生活が長い菊田氏だからこそ、こういう都 会の普遍的な孤独を表現できるのだろう。あわただしい孤独な日常を送る人々に とって、癒される瞬間だ。


イチロー氏との息をのむ強烈なバトル・セッション
さて、この日のライブのサプライズは、2人の大物ゲスト。ツイストやハウン ド・ドッグで活躍したベテラン・ベーシスト、鮫島秀樹氏と夏木マリや矢沢永吉 などと一緒にプレーしてきた売れっ子ギタリスト、イチロー氏が登場。ブルース のスタンダード・ナンバー「Sky Is Crying」などを演奏。イチロー氏とは、こ の日初めて顔を合わしたというのに、一瞬の狂いのない息の合ったセッションを 繰り広げて、観客を驚かせた。熟練のプロフェッショナル同士の技の激しいぶつ かり合いで、究極の研ぎ澄まされたサウンドがお互い引き出される。シカゴでも よくやるこのようなセッションが、ブルースの醍醐味だと強調する菊田氏。

 かつて、ブルースハーモニカ奏者、ジュニア・ウェルズに導かれて、初めて歌う ことに挑戦したという菊田氏の思い出の曲、「Little by Little」では、ステー ジからおりて、ギターを鳴らしながら、観客席を練り歩く。ときどき、立ち止 まって、1人1人に生のギターの音を浴びせるサービス。これをやられたら、ま すます菊田氏のとりこになるであろう。だが、菊田バンドは、コミカルな面を見 せることも忘れない。菊田氏の出身地、宇都宮の名産物である餃子を勧める「餃 子Blues」は、日本語で餃子の町、宇都宮をアピール。これは、宇都宮市観光コ ンベンション協会公認ソング。

 こんな風に、シカゴの大きな文化ともいえるブルースと日本を結びつけてくれる 菊田氏の功績は大きい。そして、彼の今後の願いは、故郷日本での活動をもっと 増やしていくことだ。自分のバンドを率いて、大規模な日本ツアーを行うのは、 日本にもっとブルースの良さを知ってもらい、日本での活動の場をもっと増やし ていきたいという強い意志からだ。そのため、去年より、大規模な日本でのコン サートツアーを始めた。「地方のミュージシャンたちに協力してもらいながら、 ツアーをしていて感じるのは、地方にブルースファンが根付いているというこ と。日本でもっとブルースを広げるために、今後も精力的に活動していきた い。」と語る。クロコダイルで、初めて菊田氏のライブを観た阿部博秀氏は、 「まるでギターが歌っているような感じがする!」とエネルギッシュなブルース の魅力を最初から最後まで堪能していた。

また、忙しいツアーをぬって、菊田氏は、インディアナ州の教会でのゴスペル演 奏も行っていて、黒人の信者たちに親しまれている。菊田氏の住むシカゴ郊外か ら車で1時間もかかる、ゲイリーという日本人が1人もいない土地のマウント・ モライア・ミッショナリ・バプティスト・チャーチのジョンソン牧師からの誘い で、そこのギタリストとして雇われ、定期的に日曜日に演奏をするようになった という。ここでの菊田氏は、普段のイメージとはがらりと変わり、ハットなしの スーツ姿で、ゴスペル・コーラスをささえるギター演奏に徹している。
ジョンソン牧師と

 時折、 座って演奏し、穏やかな表情で牧師を見守りながら、黒子に徹するゴスペルタイ ムは、1年中忙しいツアーをこなす菊田氏にとって、客観的に自分を見つめ直す ことができる貴重な時間なのかもしれない。ゴスペル音楽からも影響を受けなが らブルースを演奏する菊田氏にとって、「このゴスペル演奏から得るものは大き い。」ときっぱりと語る。実際、2004年にここで演奏しだしてから、菊田氏 のオリジナル曲にその影響が色濃く反映しているという。「シカゴにいる限り は、今後も出来る限り、(この教会で)ゴスペル演奏を続けていきたい。」と話す。

*「インディアナ州の教会でのゴスペル演 奏

 そんな精力的な菊田氏だが、去年8月、ココ・テイラーバンドのツアーの途中、 大きな自動車事故に巻き込まれ、大怪我を負った。前に座っていた同じバンドの メンバーが、瀕死の重傷を負い、生と死というものに直面して、大きく自分の人 生観が変わったという。強靭な精神力で、10月にはライブハウス演奏への復帰 を果たし、ますますそのギターテクニックに磨きがかかっている。現在の心境を 問われた時、「第二の人生をいただいたという気持ちだ。自分の音楽をこれから もどんどんみんなに聴いてもらい、来てくれた人に見にきてよかったと思われる ようなポジティブな演奏がしたい・・・自己満足ではなく、聴いているみんなか らエネルギーをもらい、お互いが喜びを得るようなコミュニケーションを大切に して、今後も演奏をしていきたい。」と最後に心を込めて締めくくった。

 今後、 菊田俊介という真摯なブルースミュージシャンが、日米あるいは、世界の音楽史 に名を残すような高みのあるブルース演奏を残していくことを願ってやまない。


菊田俊介公式サイト

菊田俊介ブルース日記(ブログ)

今回の日本ツアースケジュール

*シカゴのライブハウス演奏: キングストン・マインズで、月曜日21時半からレギュラー演奏、ブ ルー・シカゴ で、水曜日21時半からレギュ ラー演奏。詳しいスケジュールは、菊田氏のサイトをチェック。

シカゴ・ブルース・フェスティバル: 「シカゴ・ブルースの父」と呼ばれ、 1983年に亡くなったマディ・ウォーターズを偲んで、1984年から始まっ た世界最大規模のブルース・フェスティバルは、ダウンタウンのグランド・パー クで、毎年6月の最初の週末に行われ、シカゴの代表的な野外フェスティバル。 世界的に有名なブルース・ミュージシャンたちの演奏が、すべてフリーで聴ける。
第26回目の2009年は、6月12日(金)〜14日(日)


      
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