Kuni のウィンディ・シティへの手紙



著者略歴 馬場邦子

アメリカの通信社東京支局、及びシカゴ支局で金融をカバー。サンノゼ・マー キュリー・ニュースの 東京支局長アシスタントを経て、フリーに。主にジャパン・タイムズにアート・ レビューを執筆。
2002年より、シカゴ郊外アーリントンハイツに住み、2008年日本に帰国。
公立小学校英会話講師。


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日本家屋に現代美術を飾る〜新潟砂丘館の早川俊二展・新潟絵屋にて


 11月、新潟砂丘が作り上げた坂の上に位置する西大畑地域の日本家屋や塀に燃えるようなオレンジと黄色の木の葉が重なり合って、しんとした空気を醸し出す。
 
新潟市美術館、この地に生まれた坂口安吾の「安吾 風の館」、會津八一が晩年居住した北方文化博物館新潟分館、新潟三大財閥と言われた豪商のお屋敷だった旧齋藤家別邸などの時代を経た文化的なたたずまいが点在するせいであろうか。



「どっぺり坂」と石碑に大きく出ている坂の階段を上ると、塀に囲まれた旧日本銀行新潟支店長役邸という威厳あるお屋敷が右手に見える。


堂々とした古めかしい門が開け放たれ、我々を文化空間に導く通称砂丘館の書院作りの玄関が迎える。

 

 真横のあいづ通を抜けると目の前に日本海が広がる。
砂丘館は、その名にふさわしく、日本海に面した新潟砂丘の上に1933年(昭和8年)に建てられ、8代から37代までの日銀支店長が住んだ歴史的建造物である。(砂丘館パンフレットより)
平成12年から一般公開され、平成17年から新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体による管理・運営がスタートし、芸術・文化施設として生まれ変わった。
9時から21時まで開館していて、入場無料。

 11月7日、パリ在住画家の早川俊二展を観にこの砂丘館を訪れた。
 玄関の畳の間の純日本的な黄色い菊の生け花に迎えられて、靴を脱ぎながら、「伝統的な日本家屋にはたしてパリで育まれた早川絵画がなじむのか」と思案しながら受付に行くと、受付の後ろに女性像の作品がさりげなく2つ並んでいる。


 早川絵画の吸引力に吸い込まれそうになるのを抑えながら、横のソファ・テーブルのある洋間の応接室に入る。「茶寮六華」というカフェになっている部屋で、よく眼をこらすと、2点の早川氏の静物画の小品が壁にかかっていている。

 
 地肌のリズムの波長がやや模様がかったベージュの壁に溶け込み、あたかも初めからそこにあったかのように存在している。絵の中の壺やティーポットが古いタイプライターやラジオ、茶色の小さな鞄が置かれたレトロな部屋に見事に合っている。



  安堵しながら、高まる胸を押さえて、4畳半の控室へ向かう。
 薄暗い和室に天井から一つ電燈がともされ、上品で落ち着いたタンブラーと茶の地肌から抜け出てきたような女性像の絵画が床の間に展示され、上質で粋な空間を生み出している。女性像の横には、開け放たれた木の格子の白いガラス戸からの自然光がほのかに抜け、絵の主張を抑えているように感じられる。
 
撮影:大倉宏氏

 パリで長年醸成された西洋文化と東洋文化の融合がひっそりと息づいている。
時が止まったかのような空間に一人たたずみながら、絵の先に見える中庭の木々の紅葉で我に返る。



 この砂丘館は15もの部屋が入り組んでいて、迷ってしまうほどだ。
 「雁行」と呼ばれるずらした部屋をつなげて、庭を多様な視点から眺める工夫が施され、接客・生活空間とサービスヤードが明確に区分されている。(砂丘館パンフレットより)庭はエノキ、マサキ、モミジ、10数本のクロマツなどが植えられ、灯篭と縁先とで日本情緒を演出し、その広すぎない外の空間と家屋の展示空間とのほどよいバランスが保たれている。
 

 全面ガラス戸に面した細長い中廊下を抜けた一番奥に2階建ての蔵があり、砂丘館のメインギャラリーとなっている。この蔵は、非常時に日銀支店の役割をはたすよう準備された堅甲な白いコンクリー外壁の建物。
 戦中戦後の激動の時代の新潟を見続けてきたであろう蔵が芸術の受け皿となって、時には海外のアートも取り入れながら、人々の文化意識を高めてくれる。
  2005年から始まった砂丘館の文化活動だが、蔵ギャラリーでは年間6、7回の企画展が開催され、時には作品の前でコンサートライブ、ダンスパフォーマンスなども行われ、現在と過去の異文化のぶつかり合いが面白い。

 日本間では絵画を鑑賞しながらの茶会やヨガなどの市民の文化活動にも利用されている。詩の朗読、写真講座などの芸術文化や生活文化などのセミナーも催されている。最近は若者が砂丘館をコスプレ撮影場所にも利用するという。







 蔵のギャラリーに入ると、一瞬ドラマにでてくるような大正・昭和の時代の1シーンに早川絵画と共にタイムスリップしたような感覚を味わう。







 木の柱と床が早川絵画の基調の茶色と呼応し合って、対象を引き立たせる。








魅惑の女性像は勿論、今まで目立たなかった静物画の壺やコーヒーミルまでもがふわりと浮きだしてくる。


 長年の個展場所である東京のアスクエア神田ギャラリーでは真っ白な壁に作品が並べられ、静謐空間を作っていた。 しかし、こういう木を基調とした伝統的な空間でもパリの乾いた空気を吸って生まれてきたであろう早川作品も合うのだと感心し、訪れた人々が口々に「早川作品と合う!」「溶け込んでいる!」と感嘆の声を上げていた。
           

 この日は砂丘館の居間とお座敷で、館長の大倉宏氏が聞き手となって、早川俊二氏のギャラリートークが行われ、全国各地から早川ファンがかけつけた。
 早川氏の生い立ちから東京の美術学校時代、そしてパリに渡ってから国立美術学校で彫刻家マルセル・ジリの下でデッサンにあけくれたことなどを早川氏が詳しく語った。大倉氏によると、和室は離れた展示だが、蔵は同じ空間なので展示が難しく、じっくり考えながら、パネルをつけたりはずしたりして一番時間をかけるという。

            
撮影:大倉宏氏

 「(砂丘館に展示して)作品が違って見えるとみんな言う」と大倉氏。
 10年間の経験でいい作品であればいい展示ができるが、展示が難しい作品もあり、置いてみて入れ替えもやるという。 試行錯誤をして作品を入れ替えながら、部屋と作品が化学反応を起こし、部屋の空気感も変わるという。控室の2点の早川作品は2回展示を替えて今の展示におちついたという。
 「場所が持っている空気感と表情もあるので、両方の関係をさがすという感じでベストな飾り方を時間をかけていつも考えている」と大倉氏は言う。

 砂丘館は2005年よりNPO法人新潟絵屋が企画運営をしていて、ギャラリー運営をしている新潟絵屋は、砂丘館とは兄弟関係で広報誌やホームページでの告知活動や時には個展も一緒に行っている。
この新潟絵屋とは、2000年に大倉氏が発起人で10人の有志で始まった画廊で、会員制度による会費・寄付金で経営の一部をまかない、自由な視点で構想される企画展をめざしている。現在約200人の会員で、月に3回ほどのペースで企画展を開催しているというから驚く。

1985年から5年間新潟市美術館の学芸員をした経験から、大倉氏は「美術館は小回りがきかず、公費を使ってやるのでいろんな理由づけが必要。すでに評価が定まったアーティストを紹介する性格もある。でも、ギャラリーは自分たちで紹介したい作家を比較的すぐに人々に展覧会を無料で観てもらえるというパブリックな文化活動という面もすごく持っている」と語る。
 大倉氏は公立美術館をやめ、その後10年間美術評論などをしながら、古い民家を見に行ったりしているうちに、民家に絵を飾るということをしたくなったという。仲間と古い家並みを散策したり、町の魅力を知るシンポジウムを開催したりした準備期間をへて、大工、家具職人、雑誌の編集人、写真家などの職業の違う仲間たちと民家を改装したギャラリーを造った。当時新潟には画廊も少なかったというのも自分たちの画廊を設立するという原動力にもなった。






 大倉氏に連れられて、中央区上大川前通にあるこの新潟絵屋にもお邪魔した。車が通る広小路に大正時代の町屋を改装した建物がひょっこり現れる。
(絵屋全景: 新潟絵屋HPより http://niigata-eya.jp/)

 柱、土壁、格子戸、欄間などのやわらかでなつかしいぬくもりに包まれた部屋に絵が展示されている正真正銘のギャラリーだ。あえて「昔の日本家屋に現代美術を置いてみたらどうなるか」という実験を楽しんでいるようにも見える
新潟絵屋HPのブログよりhttp://niigataeya.exblog.jp/
 
 大倉氏は、家とアートの関係も考えながらこの絵屋を造ったという。
 「床の間のある日本の伝統的な家では墨絵や掛け軸が定番だった。元々日本にない画材や描き方の違う西洋文化はいまだに日本の家屋にしっくりこないし、しっくりさせようと努力していない部分があると思う。自分がやっているのはそういう努力の一つ」と言う。
 日本家屋のしつらいは素晴らしいのに、建てる人も観る人も絵をどう飾るかは考えていない中、絵屋や砂丘館での工夫された展示方法によって、はっとするような空間が生み出され、同時に自分の家に作品を飾るイメージもわいてくる。 絵屋での精力的な展覧会活動経験が土台となって、砂丘館というより大きな歴史的建造物での文化活動に生かせたという。

 砂丘館での工夫をこらした展示によって作品の印象がいい意味で変わったことに早川氏がこう言及する。
「僕の絵はヨーロッパっぽいでしょ。今までずっと作品を人が買って家になじんでいるか非常に気になっていた。今回の展覧会も典型的な日本家屋で木のような物に硬い石のような僕の作品が合っているか心配だった。しかし、想像以上の結果で、効果が見られた。これなら石を壁に飾って大丈夫だと自信を得た」と語る。

 展覧会に行っても常に作品を観ることだけに集中して、それらの作品を家にどう飾るのかは今まで考えたことがなかったので、今後意識していくと作品を観る視点も変わっていくかもしれない。そして、日本の伝統的なものに西洋文化を工夫して展示するという大胆な試みは、鑑賞者をいい意味で驚かせながら、アーティストにも自信を持たせる結果となったようだ。

 なお早川俊二展は1月に山形の酒田市美術館に巡回する。
●日程: 2016年1月5日〜1月26日
●場所:酒田市美術館
     〒998-0055 山形県酒田市飯森山3-17-95
●開館: 9:00-17:00 月曜休館・祝日の場合は翌日
TEL: 0234-31-0095
FAX: 0234-31-0094
HP: http://www.sakata-art-museum.jp/

●砂丘館:9:00-21:00 月曜休館・祝日の場合は翌日
〒951-8104 新潟市中央区西大畑町5218-1
TEL & FAX: 025-222-2676
Email: sakyukan@bz03.plala.or.jp 
HP:http://www.sakyukan.jp/
「遥かな風景への旅 早川俊二」展は11月29日まで

●NPO法人新潟絵屋: 11:00-18:00 各企画とも最終日は午後5時まで
〒951-8068 新潟市中央区上大川前通10番町1864
TEL&FAX:025-222-6888
Email: info@niigata-eya.jp 
HP: http://niigata-eya.jp/




                  文責:馬場邦子 写真撮影:馬場邦子・大倉宏・新潟絵屋




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