Kuni のウィンディ・シティへの手紙


著者略歴 馬場邦子

アメリカの通信社東京支局、及びシカゴ支局で金融をカバー。サンノゼ・マー キュリー・ニュースの 東京支局長アシスタントを経て、フリーに。主にジャパン・タイムズにアート・ レビューを執筆。
2002年より、シカゴ郊外アーリントンハイツに住み、2008年日本に帰国。
公立小学校英会話講師。


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シカゴ郊外Prairie Crossingという自然保護地区に住む〜Conservative Community


 この夏7年ぶりに第二の故郷ともいえるシカゴへ里帰りした。2008年に日本に帰国して以来、何度も何度もさまざまなシカゴの風景が頭の中をよぎり、「いつかシカゴに帰りたい」という強い思いを抱き続けて、ついにその日があっけなくやってきた。

 シカゴ・オヘア国際空港からハイウエイをしばらく行くと、懐かしい地名の表示が出てきて、シカゴに戻ってきたと実感した。そして、7年弱の空白の期間があっても、住んでいたアーリントン・ハイツや活動していたバッファロー・グローブのアメリカ人の友人たちは、熱烈に歓迎してくれた。ダウンタウン周辺のミレニアム・パークを代表とする観光名所は、以前と変わらず魅力的でより輝いてみえたが、レポートしたいことは、私が滞在した自然との共存に成功する珍しいコミュニティの姿だ。

 今回の滞在先は、イリノイ州レイク・カウンティ最北部に位置し、ウィスコンシン州との州境に近い、グレースレイクのPrairie Crossingという地区。その地域に住むアメリカ人の親友ベスとパートナーのマットのコンドミニアムだ。

 675エイカー(約263万平方メートル)もの平原に住宅地、湖、湿地帯、農園、牧場、学校、保育園、カフェ、お店や商業オフィスなどが共存する。
 
 コンドミニアムの目の前に見えているPrairie Crossingというメトラの駅も歩いて数分というアクセスのよさで、シカゴダウンタウンのユニオン駅まで約1時間という便利さ。
 36所帯が入る3つのコンドミニアムが駅の前の入口に、359戸の一戸建て住宅がコミュニティに散在している。この地区はLiberty Prairie Reserveという5000エイカーの森林保護区の一部であるため、住民は「自然を守る」という共通の概念のもと、動植物と共存する生活を目指す。

 ベスとマットが住むコンドミニアムは窓が大きく、室内から真っ青な空がのぞき、家の中でも太陽の光が直接体に感じられるほどだ。

 外にでて、トレイル(歩道)を歩くと、山々に咲いているような可愛らしい野生の草花がつきでた大草原がぐんと広がり、草原の向こう側に様々な色の家々が小さく見える。 
 現代版の「大草原の小さな家」とでも言おうか。
 同じレイク・カウンティのロング・グローブにそびえたつ家々のようなゴージャスな豪邸は決してない。その家々のフロントヤードには花々が美しく配置され、野生の草花も咲き乱れている。
立ち止まって、「こりゃまさに楽園だわなぁ・・・」と思わずつぶやく。

 朝起きると、鳥のさえずりが聞こえてきて、それはキッチンの窓辺横の木にかかる木製の鳥の巣から黒い羽根を持つ黄色の美しい鳥、goldfinch(ゴシキヒワ)の鳴き声だった。あちこちに赤ちゃんウサギが活発に飛び回り、鮮やかな赤い色が入った鳥たちが飛び交う。ベスの話では、湖域にはカモやサギなどの水鳥、赤いショウジョウコウカンチョウ科のcardinal、robin(ヨーロッパコマドリ、waxwing (レンジャク)と様々な珍しい鳥たちがこの地に訪れるらしい。リスは勿論、コヨーテ、きつね、スカンクなども生息しているという。

 約10マイル(16キロメートル)の自転車と人が通る遊歩道であるトレイルの名前も「Prairie Trail」「Sunflower Trail」「Wildflower」と野生の花などの名前がついていて、このコミュニティのイメージをそのまま表しているようだ。
     
   
 今年で20年目を迎えたこのPrairie Crossingというコミュニティは、まさに名前のごとく、草原をそのままそっくり残し、回りに住宅をうまく配置している。自然をそこなわないように道路などを整備し、遊歩道としている。
 イリノイ州に昔から生息する多様な野生の植物の種を蒔いて、草原を活性化させ、生物や動植物を招く努力をして、日々の生活で自然との一体感を感じられるようになっている。3分の2が自然保護地で、3分の1が遊歩道を含む住宅地となっている。こういう地域をConservative Communityと呼ぶ。日本語で「自然保護地区」とでも呼ぶのだろうか。電力などのエネルギーも半分ぐらいの消費ですむよう住宅が設計されている。
 おそらく日本にはこのような場所はないだろうし、アメリカでもこのようなコミュニティは珍しいらしく、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルなどの大手メディアでもよく取り上げられ、さまざまな地域やアジアなどの国々から先駆者であるこのPrairie Crossingを視察しに来るという。

 さて、15分ぐらい草原トレイルを歩くと、湖が見えてくる。
      

 ヨーロッパ風の郷愁をさそうような家々が湖の湖畔に並び、整然と伸びた緑の葦に囲まれるAldo Leopoldという美しい湖。(この名前は著名な生態学者であり、環境保護主義者のアメリカ人、アルド・レオポルドからとられた。)湖の向こう側に見える家々が風景と溶け込んでいる。スケールの大きいビオトープとでもいおうか。

 なんとこの湖は、住民とそのゲストが使える整備された砂浜のプライベートビーチがある。
 
常にセキュリティガードもいて、手にタグをつけていないとビーチは使えない。大きな浮き輪に寝そべって湖の真ん中で揺ら揺らと寝ている優雅な住民の姿。釣りを楽しむ人。

砂浜横の浅瀬では、小さな魚がウジョウジョいる。昔ここで泳いでいた時に、魚に足を噛まれたのを思い出す。


 シカゴに到着した日の夕方地図を片手に散策にでて、湖のベンチでじっと全景に見惚れていたら、いつの間にか人はいなくなり、砂浜には8羽のカナディアン・ギースの群れだけになってしまった。人間がいないので、湖を行ったり来たりとやりたい放題。傍らにはボートやカヤック、カヌーなどが置かれ、すぐに所有者である住民が使えるという贅沢さ。

 ベスたちも夏は毎日ここで自然の水と戯れるのが日課らしい。シカゴ郊外の住宅地の中に小さな湖というか池をよく見かけ、「湖の見える住宅に住みたい」という声はよく聞くが、プライベートビーチがある湖というのは珍しいらしく、それを聞いたアメリカ人の友達もみんなびっくりしていた。

 美しい湖の散策後は、右手に小さな赤い屋根の建物が見えてくる。公立のPrairie Crossing Charter Schoolで、向かい側に農園や牧場が広がっているため、学校はその施設を利用して、子どもたちはさまざまな自然に触れながら、穀物の成長や生物の生態を学び、環境教育に力を入れているという。驚いたことに、幼稚園年長から8年生までの300人ほどのこの小さな学校は、イリノイ州でもトップレベルの成績で、アカデミックな優秀賞を何度も取り、国のブルーリボン賞やブルーグリーン賞などの大きな賞もとっている。



 牧場には馬が2頭いて、馬小屋で馬の所有者の女性がいてベスの友達だった。馬だけではなく牧場も借りるため膨大な額の維持費を払って、毎日世話をしているというが、心の底から馬を愛しているような感じだった。

 1885年に農家が作ったByron Colby Barn(納屋)は改装され、安価なクラシックコンサートが定期的に開かれるイベントなどが開催され、住民ではなくても利用でき、人々の交流の場になっている。美しい内装で結婚式もできる。イベントなどの情報はヤフーのグループの掲示板で共用でき、ガレージセールのような役目もしているという。ベスも毎朝この掲示板をチェックして、生活に役立てているという。

 100エイカーの有機栽培の農園にはさまざまな野菜が植えられ、安価で一部を借りている住民が育てている。
 経験者が初心者に教えたり、農具を貸したりして助け合っているという。各住宅地のそばには、ブラックベリー、ブラックラズベリー、アロニア、プラム、ナシ、桃、ブドウなどの果実もふんだんに植えられ、自由に収穫できるので、マットはこれらの実を使ってジャム作りを楽しむようになったという。

 

 さて、この地に住む住民はどう協力して美しい自然を保護し、本来の意味のコミュニティを作り上げてきたのだろうか。ベスはシカゴのダウンタウンのタウンハウスに長年住んでいたが、2007年5月に引っ越してきて、Prairie Crossingに8年間住んだ。そんなベスが真っ先に掲げてくれたのは、この地に住むために原則守らなければならない10の指針だ。1970年代、この指針に基づいてこの地を住宅地に開発し、Conservative Community(自然保護地区)という言葉も生まれた。

 その指針のいくつかに、「環境保護を徹底し、健全な生活スタイルを守り、省エネを実行し、自分たちの住むコミュニティとして認識する」とある。「様々なレベルの生活水準を営む人々や人種の異なる人々が住む」ともある。

 ベスの話では、住宅地の雨水が整備された排水管を通して、Aldo Leopold湖に流れていくため、車の洗浄するときの洗剤は使用禁止だそうだ。湖の水質はバクテリアなどに汚染されていないか常にチェックされる。「住民にとって、湖はとても重要な場所。湖や周りの自然を守ることで、自然と関わる土地に住むということを常に意識する」とベスは自分に言い聞かせるように注意深く言った。
べスとマット

 そして、この住民共通の10の指針があるからこそ、強いコミュニティ意識が生まれているという。「もう少し人種の広がりや様々な生活レベルの人たちが住むようになればいいのだけど・・・」と残念そうに言う。シカゴのダウンタウンに長年住んでいた経験から、シカゴの都市のような人種や文化的な広がりは郊外ではなかなか難しいと言う。

 しかし、この広大な草原の自然の中に、整備されたプライベートビーチやテニスコート、バレーコート、フィットネスセンター、各ポッドごと完璧に整備された10の公園とまるで高級リゾート地のような環境を維持するには、費用もかかり、ある程度の収入がないと住めないことも事実だろう。

 1人の女性がホストになり、女性なら自由にその女性宅に集まって、パーティーを楽しむレディース・ナイトや男性のグループのアウトドア・アクティビティなどの交流活動、子供たちの季節のイベントも多くある。ベスが住むコンドミニアムの人々は信頼し合っているようで、できるだけお互い鍵をかけないようにしているというから驚く。実際、ベスもマットも常に鍵をかけていなかった。何かあったときにお互い助け合えるようにとのことだろう。

 2週間以上の自然の中での滞在を経て、ベスたちは食材までも毎日徹底したオーガニックで、その料理を食べたせいか、体中の細胞が隅々まで目覚め浄化していくような感覚を味わった。日々の自然が及ぼす影響力はすごい!秋が深まる中、狭苦しい住宅地に囲まれたさいたまにもどってきて、「あの夢のような大草原と湖に囲まれた生活をもう一度!」と願う日々である。


Prairie Crossing 公式ホームページ: http://prairiecrossing.com/index.php





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