シカゴ音楽三昧記
ジャズ、ブルース、ロック、R&B、クラシック、ミュージカル、オペラ・・・シカゴはさまざまな音楽の宝庫。この新連載では、音楽なしでは生きていけない編集長自らが日々体験したシカゴでの音楽ライブを、逐次レポートしていきます。どうぞお楽しみください♪
●Text & Photo/ Shoko Nagano


<第3回> シカゴ・ジャズ・フェスティバル (2013.8.29-9.1)

 
ジャズの音色がシカゴにさわやかな秋の風を運んできてくれる・・はずだったのだが、今年はどっこいそうはいかなかった。連日の30℃を超える蒸し暑さに、見ている側もタオルとうちわ(とビール)が手放せなかったほど。例年になく寒くて震えていた6月のブルースフェスとは、まさに逆をいくパターン。
 ともあれ、今年35回目を迎えたフェスティバル、最大の変化は会場が従来のグラントパークからミレニアムパークに移ったことだ。シカゴ観光名所のクラウドゲイト、通称“ビーン”のすぐ後方のプロムナードをはさんで二つの小さなテント・ステージ(“ジャズ・ヘリテージパビリオン”、“ヴォン・フリーマン・パビリオン”が設置され、市中心部とのアクセスがいとも簡単になった。おかげで平日でも昼休みや仕事帰りにふらりと立ち寄れるし、お腹がすいたらミシガン通りのカフェでさくっと腹ごしらえすることもできる。何といっても、従来はやたらと厳しかったアルコールの持ち込みが自由になったことがうれしい! 


 さらに、メインステージがシカゴの誇る野外コンサートホール、“ジェイ・プリツカー・パビリオン(Jay Pritzker Pavilion)”になったことも大きな魅力だ。このコンサートホールは、建築家フランク・ゲリーのデザインで、パビリオンの高さは120フィート(36.58m)にも及び、数々の曲がりくねった巨大なスチールがリボンで舞台を結んだように構成されている。前方には4000の椅子席が設置され、後方には7000人が十分に座れる芝地もあって、頭上にクロスしたスチールの格子からは最先端の音響技術による明瞭な音声が楽しめる。今までの会場の音響に長い間不満を持っていたJazzファンにとっては、実はこれが一番うれしかったはず。

 残念ながら全てのプログラムを見て回るのは不可能だったので、印象に残ったステージを紹介してみよう。


★ 8/30(金曜日)のステージから

Hamid Drake with Michael Zerang, Eigen Aoki and Tsukasa Taiko Drummers directed by Tatsu Aoki
   

 
今回のフェスティバルで一番忙しかったのがこの人、シカゴ在住のパーカッショニストHamid Drake(ハミッド・ドレイク)。Jazzはもちろんレゲエ・ドラマーとしてもシカゴのトッププレーヤーのひとりだ。このプログラムでは、彼が日本の太鼓とコラボ。シカゴの太鼓グループ“司太鼓”とがっつり組み、本能のまま野性的なドラミングを聞かせてくれた。一糸乱れぬ和太鼓の音が体の芯にまで響きわたり、観客は華麗なバチさばきに酔いしれる。普段は滅多に見られないDrakeの違った一面をたっぷりと楽しめた、熱いステージだった。
 

中央は司太鼓の代表でディレクターのタツ青木氏。年末には再びこのメンバーで『太鼓レガシー』コンサートが開かれる予定だ。(2012年の様子はこちら


            
ステージ横の木陰でのんびり


Wadada Leo Smith’s Ten Freedom Summers WLS’s Golden Quartet and Pacifica Red Coral with video artist Jesse Gilbert
 今までに見たJazzライブのなかでも、間違いなく一番忘れ難いインパクトを受けたのが、ミシシッピ出身のトランペッター&作曲家のWadada Leo Smith(ワダダ・レオ・スミス)のステージ。その佇まいから放たれるオーラ、一音一音に込められた闇を切り裂くような叫び。後方のスクリーンでは、様々な“非現実のような現実”が象徴的に映し出され、彼自身の作曲による組曲“Ten Freedom Summers”と相まって、見るものを圧倒した。

Charles Lloyd and Friends featuring Bill Frisell
 
 60年代半ば、キース・ジャレットやジャック・ディジョネット、セシル・マクビーらと共に不動の地位を築いた、テナー・サックスの巨星Charles Lloyd(チャールス・ロイド)の率いるクァルテット。直前の雷雨でショーの開始が1時間近く遅れたにもかかわらず待ち構えていた熱心なファンの期待を裏切らない、エネルギッシュで自由奔放な即興は、75歳という年齢を決して感じさせないものだった。







Reuben Rogers(Bs)、Eric Harland(Ds)の織り成すリズムセクションは最強。


★ 8/31(土曜日)のステージから 〜午後2時ごろまではあいにくの豪雨

Frank Russell Band
 シカゴ・ジャズフェス始まって以来、ベーシストとしては初めて自らのバンドを率いての出演となったFrank Russell(フランク・ラッセル)。4月にシカゴで行われたマイルス・デイヴィスのエレクトリック期をトリビュートしたライブで大成功をおさめ、今ノリに乗っているミュージシャンのひとりだ。
 2011年に発表した最新作“Circle Without End”からの曲を中心に、ハービー・ハンコックの“Dolphin Dance”やマイルス・デイヴィスの(作曲は Robert Irving III)“Code MD”を新しくアレンジした“Code MD II”などで華やかにこの日の幕を開けた。


Chevere de Chicago
 コスタリカ出身のパーカッショニスト、Alejo Povedaが36年前に結成した、パーカッションだけのアンサンブルバンド。今回は、シカゴを代表するトランペッター、Orbert Davisらをスペシャルゲストに迎えた構成。とにかく音が分厚い!格好いい!そのひとことにつきる。ラテンのリズムというものはそもそも人間の踊る本能を刺激するらしい。雨上がりの蒸し暑さをものともせず、観客も総立ちで踊る踊る。

Gregory Porter

 今、最も注目を浴びている男性ジャズシンガー、Gregory Porter(グレゴリー・ポーター)。ゴージャス、オーガニック、トラディショナル、フォースフル、ソウルフル、エモーショナル・・・と、彼の歌を表現する形容詞はつきない。幼少から教会でゴスペルを歌い続けてきた経験に裏打ちされた言葉の説得力が、深いバリトンに運ばれてすべての観客の心に入り込んでいくのが見えた。あるのはただ、声と言葉だけ。そこにYosuke Satoh(佐藤洋祐)の優しいサックスの音色が絶妙に絡み合う。中盤、“Work Song”での完璧なパフォーマンスに感動した観客が総立ちになり拍手が鳴りやまなかったので、ポーターが「(ステージは)まだ終わりませんよ」と言って場内がどっと沸く。
 終演後のCD販売コーナーには200人を超すであろう観客の長蛇の列ができ、1時間以上もその列が途切れることはなかった。(2010年のデビューアルバム“ウォーター”は、グラミー賞「ベスト・ジャズ・ボーカル・アルバム・オブ・ザ・イ ヤー」にノミネート)

Jason Moran: Fats Waller Dance Party
 チャールス・ロイドのバンドメンバーとして共に活動している新進気鋭のピアニスト、Jason Moran(ジェイソン・モラン)率いるグループ(ベース:Earl Travis,トロンボーン: Joshua Roseman, トランペット:Leron Thomas, ドラム:Charles Haynes,ボーカル: Lisa E. Harris, ギター: Martin Sewell)による、Fats Waller(アメリカを代表するジャズ・ピアニスト)のトリビュートステージ。Fats Waller全盛期の1930年代の音楽に合わせて、ダンサーたちがステージ狭しと踊り回るミュージカルさながらのダンスパーティに、シカゴの夜が一つになる。嵐で始まった一日は華やかなショーで締めくくられた。

★9/1(日曜日)のステージから

Hamid Drake & Bindu: Reggaeology
 このフェスで3日連続3回目の登場のHamid。和太鼓とのコラボレーション、フリー・ジャズ・カルテット、そして最後はいよいよレゲエ・ドラマーとしての本領発揮、自身が率いるグループで有終の美を飾る。2010年に発表した “Reggaeology”から、レゲエと即興Jazzとラップ(spoken word)が融合した、単なるレゲエの枠にとらわれない独自の世界を見せつけたHamid。その不思議な世界観に観客も一緒にトリップだ。

Donald Harrison and The Congo Square Nation w/ special guest Willie Pickens

 今年のオーラスは、ニューオーリンズ・ジャズ!
サクソフォニストのDonald Harrison(ドナルド・ハリソン)。華麗なサックスを聴かせたと思ったらコンゴを叩き、最後はマルティグラ・インディアンズたちとど派手なマルティグラ・パレードを繰り広げた。会場はちょうど降り出した雨にあおられ、傘を広げて本場さながらのマルティ・グラに。  
   






 熱狂した場内を静かに癒してくれたのが、スペシャルゲストでシカゴの誇る名ジャズピアニスト、Willie Pickens(ウィリー・ピケンス)。
 
 昨日といい今日といい、最後は派手なダンスパーティで締めくくられた今年のシカゴ・ジャズ。場所も新たに35年目を迎えた“新生”フェスティバルを祝うかのようなしゃれたフィナーレだった。


シカゴジャズフェスティバルWebサイト:http://jazzinchicago.org/jazzfest/


これだけの演奏をすべて無料で見ることができる素晴らしいフェスティバル、世界広しといえどもなかなかあるもんじゃない。気候も穏やかなこの季節、来年はぜひお越しください!



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